節約志向で「安い食品ばかり買う」人の重大盲点

ソース: 東洋經濟 / 画像: つむぎ/PIXTA /著者: 安部 司

「節約の達人」に欠けている「大事な視点」は?

「安さ」重視で節約ばかり考えている人が知らない重大盲点とは何でしょうか?

「安部ごはん」に寄せられた、思ってもいない意見

『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

拙著『食品の裏側』で、私は、日本の食生活にいかに添加物が入り込んでいるか、そして添加物が大量に含まれた食品を食べることの弊害を訴えました。

ありがたいことに、本が70万部のベストセラーになったことで「食生活を見直すきっかけとなった」と言ってくれる人が多数いました。

また漬け物やミートボールなどの加工食品の添加物を減らすという「勇気ある行動」に出てくれた食品メーカーもありました。「日本の食文化の向上」に多少なりとも貢献できたのであれば、十分ありがたいと思っています。

そして、次なる段階として「では、何を食べればいいのですか」という質問にお答えする形で生まれたのが、「安部ごはん」です。

5つの「魔法の調味料」を自宅で用意しておけば、誰でも「簡単に」「時短で」おいしい和食が、しかも「無添加」で自由自在に作れる、そのためのレシピを15年かけて開発しました。

ところが、発売後、私は思ってもいない感想・意見を頂戴するようになりました。

「安部さんの言うとおりに、無添加のものを使って手作りにするよりも、インスタント食品や出来合いの惣菜を買ったほうが、安くあがる

「肉や野菜を買って手作りするより、加工食品や総菜を使ったほうが安い

正直言って、想定外のことに、私は返す言葉が見つかりませんでした。

では「安部ごはん」と「節約」は両立しないのか。なぜ一部の加工食品は、手作りするよりも「安い」のか。その「カラクリ」を考えてみたいと思います。

まず、食費を節約するために、「あえて加工食品や冷凍食品を買う、しかも『激安加工食品』に目がない」という人の話を紹介しましょう。

主婦のAさんは、自他ともに認める「節約の達人」。夫と子ども(5歳、8歳)という4人家族で、「月の食費が3万円台」だそうです。

「1週間の買い物を7000円以内」と設定しているとのことで、激安スーパーや人気の会員制倉庫型店を回って、予算内に収めるそうです。

その内容は、私にとっては少々驚きでした。とにかく「生鮮食料品」が極端に少なく、「加工食品」が大半を占めているのです。

「節約の達人」に「抜けている視点」

肉や魚は「揚げるだけ」「レンチンするだけ」の冷凍品が大半で、野菜も冷凍品が多く、生鮮はプチトマトとカイワレ大根ぐらい。

ほかはハム・ベーコン、インスタントラーメン、カップスープ、大量の菓子パン。子どもたちの朝食は毎朝、菓子パンなのだそうです。個別包装のものは高くつくので、もっぱら5~6個入りのパックを買うといいます。

Aさんがいうには「たとえば生の鶏肉を買って味を付けて揚げるより、下味がついていて揚げるだけの業務用の大容量の冷凍品のほうがはるかに安上がり」なのだそうです。

確かに「家族4人で月に3万円」というのは、「節約」という観点からは立派でしょう。しかし、Aさんの食生活に「すっぽり抜けている視点」があります。それは「その食品は、いったいどうやって作られているか」という視点です。

この食生活をしている限り、Aさん一家は、毎日かなりの量の食品添加物を摂取してしまっています

たとえばAさんがよく買うという「業務用のチキンナゲット」。原材料表示には、「鶏肉」「小麦粉」「パン粉」「食塩」「香辛料」のほか、「調味料(アミノ酸等)」「リン酸ナトリウム」「増粘多糖類」「着色料」「甘味料」などの食品添加物が入っていたりします。

これで1キロ800円台だそうで、「生の鶏肉を買って調理するより、こっちのほうが安いんです」とAさんはニッコリ。

ほかにも、「業務用ハンバーグ」「業務用ミートボール」「冷凍の牛丼の素」なども、Aさんがよく買うラインナップだそうです。

では揚げるだけ、レンチンするだけの加工品が、なぜ材料を買って家で作るより安上がりとなるのでしょうか。

もちろん、大量生産・大量販売、その他コストカットのためのさまざまな工夫ということはあるでしょう。しかしそれだけではない、やはり「カラクリ」があります。

以下は、一般的によく売られている「業務用のチキンナゲット」の原材料の一例です。Aさんが日ごろ買っている製品とかなり似通っていると思います。

鶏肉(国産)、大豆たんぱく、しょうゆ、衣(小麦粉、コーンフラワー、でん粉、食塩、脱脂粉乳、ぶどう糖、香辛料)、デキストリンチキンエキス、揚げ油(パーム油)、加工でんぷん調味料(アミノ酸等)リン酸Na増粘多糖類着色料(カロチノイド)甘味料(スクラロース)

まず、安く作るためには、安い鶏肉を仕入れます。たとえば廃鶏といって卵を産まなくなった鶏の肉は非常に安く仕入れることができるので、廃鶏が使われることも多くあります。

ただ、廃鶏の肉は固いので、チョッパーでミンチ状にし、そこに「大豆タンパク」を加えてソフト感を出します。「大豆タンパク」はかさ増し(増量)にもなります。

廃鶏という、もともと味が落ちる肉を使っているうえに、「大豆タンパク」でかさ増しをしているため、味が足りません。そこで「チキンエキス」「調味料(アミノ酸等)」「甘味料」を使って、しっかりと味を付けます

色も着色料で、オレンジ色を付けておいしそうに見せます。また、このままでは形がドロドロなので、「加工でん粉」「リン酸Na」「増粘多糖類」を使って形をまとめます

これで子どもが喜ぶ、おいしい「チキンナゲット」の完成です。ちなみに業務用の「ハンバーグ」「ミートボール」もこれに準じた作り方でできます。

「添加物=台所にないもの」と考える

『食品の裏側』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

私は常々、添加物には「5つの働き」があると説明しています。

【1】安い(増量、置き換え、フェイク・もどき食品で単価が下がる)
【2】簡単(調理の面倒くささを解決する)
【3】便利(保存性と今すぐほしいという要求を同時に満たす)
【4】きれい(見た目を美しくする)
【5】オイシイ(素材本来の「おいしさ」ではなく、化学的な濃い味)

詳しいことは拙著『食品の裏側』をお読みいただきたいのですが、この中でも特に「安さ」については添加物の果たす役割は非常に大きいのです。

このチキンナゲットも「5つの添加物の恩恵」にしっかり浴しています。

まぜものをすることでかさが増え、添加物の力で、素材が悪くてもおいしく仕立てることができる。見た目もキレイ。だから安く販売できるのです。

チキンナゲットは自分で鶏肉を買ってきて、衣をつけて揚げれば、添加物はゼロでつくることができるはずです。

品質、添加物をまったく無視したところで、手作りと業務用を比べて「業務用のほうがはるかに安上がり」というのはちょっと違うのではないでしょうか。

安いものには「理由」があります。その「カラクリ」を考えず、「裏側」を知らずに、「安い」というだけで飛びついて買う、その消費行動を私は問題視したいのです。

たんに「安さ」だけを見て食品を買う、そういう「節約術」で本当にいいのでしょうか

私は「食費の節約」がいけないといっているわけではありません。食費を節約したいのは、どなたも同じでしょう。

じつは「安部ごはん」と「節約」が両立しないというのは誤解です。「安部ごはん」は食費の節約に大いに貢献できます。その鍵は「コスト感覚」にあります。

加工食品は、通常、販売価格に対して、食材費(原材料費)が2~3割程度になるように設定するのが主流です。つまり「100円のおにぎり」なら、食材は「20~30円」ほどになるよう調整するのです。この原材料費に、「人件費」「流通費」「家賃」「宣伝費」など、さまざまなコストが乗っかって、最終価格・販売価格となるのです。

市販のおにぎりは、商品によってもちろん差がありますが、だいたいお米が50グラムほど使用されているものが多く売られています。お米の販売価格をキロあたり300円程度とすると、50グラムは15円。それを100円で買っているのです。おにぎりの具材や包装代が10円としても、75円が「手間賃」です。

自分でお米を炊いておにぎりを握れば、100円のうち75円の「手間賃」をほかの人に渡さずに済むわけです。そうやって「原価」を考えれば「手作り」こそが「最高の節約」となるのではないでしょうか。


子どもは「食べ物」を選べない

私はいつも「子どもは『食べ物』を選べない」と言っています。子どもは親が与えた食べものを、何の疑問もなく、素直に口に入れます。

「安さ」ばかりを見て添加物が大量に含まれた食事と、ちゃんと吟味した食材を使って手作りした食事、どちらを子どもと、家族と、一緒に食べたいでしょうか?

もちろん「なにがなんでも手作りでないといけない」という原理主義みたいなことをいっているわけでは一切ありません。

安部司さんの1DAY料理講座「安部ごはん・男子塾」(男性限定)を、11/23(火祝)午前11時より「タカコナカムラホールフードスクール」で実施します。「魔法の調味料」と「安部ごはん」を、安部さんがみなさんと一緒に作ります!詳しくはこちら (写真:佳川奈央)

たまに加工食品やお総菜を使う日があっても、もちろんいいと思います。でも「今日は出来合いのお惣菜で済ませてしまった」と思ったら、「次は手作りしよう」と思えるのではないでしょうか。そこが大事なポイントだと私は思います。

なにより、別に難しいことを考えなくても、「料理が楽しい」と思えたら、それがすべてを解決します。

手作りのご飯を子どもや家族が喜んでくれれば、「手作りしないといけない」「やらなきゃいけない」というノルマ意識がなくなります。子どもが「おいしいね」といって笑顔になれば、料理が楽しくなり、「また作ろう」と思えるはずです。

もちろんすべてをゼロから手作りする時間は、いまの忙しい人にはないと思います。でも、だからといって、何でも加工食品・出来合い惣菜で済ませなくても、「時短で、安い材料で、無添加のおいしい食事」を作ることは可能なのです。そのために私は、5つの「魔法の調味料」を開発し、それで簡単に作れる102品のレシピを15年かけて考えました。

たとえば、「安部ごはん」では「手羽中」さえ買ってくれば、あとは「魔法の調味料」の「かえし」と、「白コショウ」「白炒りごま」だけで簡単にできる「チキンバー」の作り方も紹介もしています。「こんなに噛みごたえがあり、鶏肉の凝縮したうま味が感じられるレシピが、自宅でできるのか」と、実際に作った人が驚くほどの「手羽肉専門店の味を再現した人気レシピ」です。ぜひ一度、作ってみてください。

「簡単なのに、やっぱり家で作ると美味しいね」と、「家での食事が楽しく、美味しくなる」、その第一歩に「安部ごはん」がなれば、開発者として、とてもうれしく思います。

 

安部氏が開発した「かえし」さえ用意すれば、簡単に作れる「ガチで食べたい人の専門店のチキンバー」(撮影:佳川奈央)