水分は「水、お茶、無糖コーヒー」に限定すべき…肝臓外科医が警告する「甘い飲み物」と「脂肪肝」の怖い関係

ソース: President Online / 画像: iStock.com /著者: 尾形 哲

「脂肪肝」の原因はお酒の飲みすぎとは限らない。肝臓外科医の尾形哲さんは、「お酒を飲まないにもかかわらず発症する『非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)』は約2,000万人。甘いものをとれば、確実に肝臓が蝕まれることを知ってほしい」という――。

※本稿は、尾形哲『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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日本の成人の3人に1人は脂肪肝

C型肝炎治療の劇的な進歩によってウイルス性肝炎による肝硬変の割合が減少する一方で、肥満や糖尿病などの代謝性疾患による「脂肪肝」が増えています。

特にお酒を飲まないにもかかわらず発症する脂肪肝を「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といい、その数はなんと約2,000万人。成人の3人に1人が脂肪肝だといわれる、もはや「国民病」です。糖尿病は予備軍を含めて約2,050万人といわれ、それに匹敵する数です。両方を併発している人も少なくありません。

肝臓は、アルコールの分解を筆頭に、有害物質の解毒やタンパク質の合成など、体内で数々の働きを担う臓器。肝臓を悪くするのは、お酒を大量に飲む人というイメージがありますが(これはもちろん本当です!)、「お酒を飲まないから関係ない」ともいえません。

その原因は“糖質の摂りすぎ”にあります。そこで、甘いもの好きな人が“甘いもので健康を奪われない”ために、知っておいてほしい食べ方の誤解を解いていきましょう。

誤解その1:疲れたときにはスイーツで元気に

「甘いもので太る」のは、みなさんご存じで、日頃から気にするところでしょう。でも、パソコン作業や家事などのタスクに集中して疲れたときに、つい、チョコやキャンディー、クッキーなどの甘いものを口にしてはいませんか? カフェで甘いドリンクを飲む人も多いでしょう。

わざわざ高級店でケーキを食べに行くとなるとハードルが高いですが、「サイズが小さなものなら大丈夫!」「コンビニスイーツは手頃だし」「カフェのドリンクなら……」と、ハードルを下げて口にしがちです。

甘い食べものが引き起こす「魔のループ」

確かにブドウ糖は脳のエネルギー源になるため、疲れると脳からは甘いものを欲する司令が出ます。だから、“ハードルの低い甘いもの”にスッと手が伸びてしまうのです。これは、脳がそうさせる行動なので、ある意味、仕方がないことです。

とはいえ、空腹時に甘いものを食べれば、血液中に糖が増えて血糖値が急激に上昇。すると、すい臓からは血糖値を下げるホルモンのインスリンが分泌されて、血糖値を下げます。ところが、このときにインスリンは、“糖を中性脂肪に変えて体内に蓄える”のです。

さらに急上昇した血糖値を速やかに下げるため、インスリンの分泌量も過剰になって、今度は急激に血糖値を降下させます。すると血糖値が下がりすぎて低血糖になり、空腹感がムクムクと湧き出して、また甘いものが欲しくなる悪循環が起こるのです。

それだけではありません。低血糖状態では、疲労感が強くなったり、イライラが強くなったりもします。つまり、疲れをとるはずの甘いものが、再び疲れを呼び起こす魔のループになっているというわけです。

こうして、「疲れたから」「がんばったから」とご褒美のスイーツを食べると、かえって疲れは増すことを知っておいてください。

誤解その2:エナジードリンクを飲めば疲労回復

年末は疲れもピークに達しがち。疲れた体を回復するために、エナジードリンクを飲む習慣のある人もいるでしょう。

エナジードリンクには、眠気覚まし作用が期待できるカフェインや、エネルギー補給に役立つ糖分などが配合され、作業のパフォーマンスが一時的に上がることがあります。しかし、なけなしの燃料に酸素を送り込んで一気に燃焼させるようなもので、残念ながら心身の疲労が回復するわけでも、睡眠不足が解消されるわけでもありません。

それだけではありません。糖にカフェインが加わると、糖単体で摂取するよりも高血糖になることも報告(※)されていて、肝臓にはダメージの大きい飲料です。

誤解その3:油っこいものはたくさん食べられない

年を重ねるにつれて、油の多い和牛カルビなどの油っこいものが食べられなくなってきたという人もいるでしょう。ですが、それは加工されていない食品の話であって、加工食品はその反対です。「砂糖」と「油」が加わるほど食べやすく、食べる量が増えることが科学的に示されています。

焼き芋とさつまいもを油で揚げて、砂糖でまぶした芋けんぴで比較してみましょう。焼き芋は100g分も食べればお腹が満たされる人が多いです。しかし、さつまいもを油で揚げて砂糖をまぶした芋けんぴだと、100g食べても満腹感を感じにくくやめられなくなります。さらに途中でおせんべいなどの塩味を挟めば、際限なく食べられることにも。

同じ量でもカロリーが3倍以上にもなる芋けんぴをたくさん食べてしまうのは、脳が高糖質×高脂質の食品から快感を得ていて、もっと食べるように要求するためです。砂糖と油の組み合わせに、脳がだまされてしまうのです。

アメリカ国立衛生研究所の研究チームが行った、健康な男女10人ずつに「超加工食品(糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品で、添加物を加えて工業的な過程を経て作られる食品)」と「加工を最小にした食品」を2週間ごとに摂取してもらう実験があります。

どちらの食事も含まれるカロリー、炭水化物、タンパク質、食物繊維、脂肪、塩分などは同じですが、被験者は食べる量を自分で決めることができました。すると、超加工食品では1日の摂取カロリーが平均500kcalほど多く、最小加工食品に比べて食べるスピードが速く、体重も増えることが明らかになっています。

味が変わると食べる総量が増えるというデータも数多くあります。甘いものを食べて満足しても、しょっぱいものなら食べることができ、さらに甘いものへとループが途切れないのです。

こうした食品を食べすぎれば、糖と油のダブルパンチで、肝臓に脂肪が増えていくので要注意です。

糖分入りの飲料から卒業しよう

肝臓に脂肪を増やさないためには、甘いものを減らすことはとても大切です。でも、今日から甘いものを一切やめるというのは無理な話。実際、続けることは難しいでしょう。ですから、優先順位をつけて最初に減らしてほしいものからお伝えします。それが、糖分入りの飲料です。

運動時に飲むスポーツドリンクや、腸内環境を改善すると謳われる乳酸菌飲料、野菜不足の解消に飲む野菜ジュースなど、特に体によさそうな飲料は健康効果を期待できる一面もあるのでしょうが、「砂糖水」です。飲めば、血糖値が急上昇して肝臓を傷めます。糖分を含んだ飲料から最初にやめましょう。

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細かい話をすると、糖にも種類があります。ブドウ糖と果糖を比較すると、脂肪を増やすのは果糖です。特に内臓脂肪を増やすことが明らかにされています。

果糖は肝臓で直接代謝されるため、血糖値を上げにくい代わりに脂肪としてため込まれやすいのですが、私たちが摂取している果糖のほとんどは、砂糖、果糖ブドウ糖液糖からです。あらゆる加工食品に使用される「果糖ブドウ糖液糖」は、特に肝臓に与えるダメージが大きいです。使用される食品が多く、摂取をゼロにはできませんが、優先的に減らしたい甘いものの1つです。

水分は水、お茶、無糖コーヒーに限定しましょう。これだけで、肝臓が受けるダメージが減ります。

ストレス食いを減らす5つの方法

疲れもそうですが、ストレスが過剰にかかると脳が正常に作動できずにストレス食いに走りやすくなります。そして、ストレス食いだといってサラダをモリモリ食べる人がいないように、そのときに食べたくなるのが砂糖と油が多い高カロリー食品なのです。つまり、てっとり早く肝臓に脂肪を増やす食べ物です。

そこで、ストレスを理由に暴走する食欲を止める5つの方法を紹介します。

1:最初に水を飲む
「食べたい!」と思ったら、とにかく最初に水を飲むのがおすすめ。血中のナトリウム濃度が下がり、飢餓がなくなったと脳が指令を送る効果があるため食欲を抑えやすくなります。

2:タンパク質や良質の油を摂る
タンパク質や良質な油を含むナッツ類や魚介などを摂ると満腹感を得やすく、食べすぎを防げます。

3:本当に食べたいものを食べる
身近にあるからなんとなく食べるのではなく、「本当に食べたい!」と思うものを選んで食べるのが理想です。忙しいときには、そうした楽しみを予定するだけでもOKです。

4:良質なものを選んで食べる
コンビニよりもデパ地下。というように、迷ったら高級なものを選ぶと、回数が減っても満足感を得やすくなります。

5:ホットアイマスクで目元を温める
食欲を司る脳を休めるには、アイマスクで一時的に情報を遮断するのも有効です。目元を温めると、リラックスモードに切り替えやすくなります。

甘いものを一切やめてくださいと言うつもりはありませんが、甘いものによって肝臓は蝕まれていきます。最初は意識的に減らす努力が必要かもしれませんが、「やめられない、どうせ続かない」と思い込まずに、ゆっくりと体調の変化を味わってみてください。