バーベキューで注意すべき「3つの細菌」と症状

ソース: 東洋経済オンライン / 画像: PIXTA /著者: 久住 英二

バーベキューを楽しむために、食中毒につながる思い込みや誤解を改めておこう(写真:チータン.C/PIXTA)

ポストコロナの夏、仲間と集って楽しむバーベキューは格別だ。ただ、今年の夏は史上最も暑いという。クーラーボックスの保冷剤が想定より早く溶け、生鮮食料品が傷んでしまうトラブルも予想される。健康的にバーベキューを楽しむために、食中毒につながる思い込みや誤解を改めておこう。

食材は細菌やカビに汚染されている

高温多湿の夏は、「細菌」による食中毒の季節だ。予防原則の1つは原因菌を「つけない」こととされるが、そもそも全ての食材には、もとより目に見えない細菌やカビがついている。自然界は微生物にまみれているのだ。生鮮食品を常温で放置すれば、次第に腐ったりカビたりし始めるのは当然だ。

ただ厳密には、食中毒は「腐った食品」で起きるわけではない。腐るのは、「腐敗菌」と総称されるさまざまな細菌の働きだ。一方、「食中毒」は、国が医療機関に発生の届出を定めた、特定の「食中毒原因菌」(細菌やウイルスなど)等によって引き起こされるものを指す。

細菌では、大まかな分類で12種類ある(厚労省)。それらは人体への影響が大きく、飲食店などで集団発生すると社会的にも影響が及ぶため、他の雑菌とは明確に区別して扱う必要があるのだ。

だから極端な話、少しくらい腐ったものを食べても食中毒原因菌がいなければ、ちょっとお腹が緩くなるくらいで済むだろう。とはいえ多くの場合、腐ったものには食中毒の原因となる病原菌も含まれるから、いっさい食べないのが賢明だ(そもそも不味い)。

なお、細菌は65℃以上の加熱で殺すことができる。だが、バーベキューなど慣れない環境で調理すると、加熱が不十分になりやすい。また水道設備や石けんなど手洗い環境が整っていないと、食中毒が起きやすい。多いのは、生肉を切って汚染されたまな板や包丁、手などを使って、サラダや漬物など生食する食物を扱ってしまうパターンだ。

今回はバーベキューで問題になりがちな3つの細菌と対策を覚えておいていただきたい。

肉類で食中毒が問題になる細菌は通常、家禽(鶏など)や家畜(豚や牛など)の消化管に棲みついていたものだ。それが食肉に解体する過程などで鶏や豚の肉に付着し、生焼けで食べて食中毒を起こすことが多い。

「自己判断の抗生剤服用」が命取りのO157

焼き肉等による食中毒で有名な「O157」は、大腸菌の一種だ。

「大腸」菌と言うだけあって、動物の消化管に棲みついている。もちろん人間の大腸にも定着しているし、それらは極端な話、舐めても無害だ。一方で、生肉についている大腸菌、つまり家禽(鶏など)や家畜(豚や牛など)の消化管には、人体に有害な毒素を産生する大腸菌もいる。

とりわけ毒性の強い「ベロ毒素」を出す大腸菌(腸管出血性大腸菌、EHEC)の1つが、O157である。

主な症状は、発熱、下痢、血便だ。最悪の場合、「溶血性尿毒症症候群」などを起こし、呼吸能力が低下し、血圧が下がり、尿が出なくなる。最終的には意識が混濁し、多臓器不全によって死に至る。

ベロ毒素が血液中で、血管の内側の壁(血管内皮細胞)を傷つけるのが原因だ。血管内皮細胞の働きが妨げられると血液が固まって、血流が止まる。血液は全身に酸素を運んでいるので、酸欠となった脳や心臓や肺、腎臓など生命維持に必要な臓器は、機能できなくなる。

ベロ毒素に弱いのは子供と高齢者だが、健康な若者もリスクはゼロではない。

そして実は一番危険なのは、「細菌だったら抗生剤が効くのでは? 早めに服用すれば軽症で済むのでは?」という安易な対処だ。

菌を殺す=壊すことで、菌体に含まれるベロ毒素がばらまかれ、より重症化を招く。過去に医師に処方された抗生剤を保管しておいて自己判断で服用される方は少なくないが、それが命取りになりかねないのだ。

O157(その他EHEC)は、100個程度の少ない菌数でも感染して発病することがある。食べ物のにおいや味では菌が増えているかどうかわからないので、とにかく低温管理を徹底するしかない。

なお、今年は日本各地でO157による食中毒の報道が相次ぎ、久々に多発しているように感じるかもしれない。ところが実際は、報道がコロナ一色だっただけで、この10年ほどは毎年、O157食中毒も有症者が2500人ほどしっかり発生していた(国立感染症研究所「感染症発生動向調査」)。

「治ったはずの1〜3週間後」が怖いカンピロバクター

「鶏肉や豚肉はよく加熱するように」と聞いたことがあるかもしれない。カンピロバクターももともとは、鶏や豚、牛などの消化管に棲んでいる細菌だ。

ところが、10年前の調査では、国内の食肉用ブロイラーのカンピロバクター保有率は67%だった(農林水産省)。時期や養鶏場によっては、100%近く汚染されている場合もあるという。

カンピロバクター食中毒で特徴的なのは、38〜39℃程度の高熱が出ることだ。そして腹痛が起き、下痢をする。通常は1週間程度で自然に治まっていくため、受診しても整腸剤や解熱剤で治療するくらいで、抗生剤治療は滅多に行わない。

ところが厄介なのは、それから1〜3週間後に「ギラン・バレー症候群」(急性炎症性脱髄性多発根神経炎)という厄介な合併症を引き起こすことだ。体中の神経が機能しなくなり、結果として筋肉が動かなくなり、呼吸もできなくなり、放置すれば死に至る。発病すると1年前後の療養生活を送らねばならず、しかも完全に回復するわけではない。

国内の報告では、カンピロバクター胃腸炎の患者の5%ほどが後日ギラン・バレー症候群を発病したとの報告がある。20人に1人というのはなかなかの合併率だ。

サルモネラは1週間以上長引く下痢が特徴

サルモネラもやはり、食用動物の消化管に棲みついているものだが、食肉が汚染されていることが多い。 カンピロバクターと同時に行われた調査では、国内の食用ブロイラーのサルモネラ保有率は64%だった(農林水産省)。

サルモネラ菌による食中毒では、激しい下痢などの症状が長引くことが特徴だ。最初は吐き気や嘔吐で始まり、その後に腹痛や下痢が始まる。下痢は1日数回から10回以上になることもあり、かつ3〜4日続き、中には1週間以上に及ぶこともある。夏場にこれだけの下痢が長引けば、あっさり脱水症になるだろう。

多くは感染してから8〜48時間後に発症するが、4日後の発病も珍しくない。

サルモネラ菌はペットからも感染する。犬、猫、うさぎ、鳥類、は虫類などの動物には、サルモネラ菌が棲みついていることがある。とくにカメは感染源として有名だ。外遊びで、子供がカメやトカゲなどに触ることもあろう。きちんと石けんで手洗いすることが大事だ。動物とふれあうことのできる動物公園などでは、触った後は石けんで手洗いするよう注意が掲示され、手洗い場などが設置されていることが多い。

なお、食肉以外にも、魚には、水中に漂う「腸炎ビブリオ菌」等が付着しているし、内臓に「アニサキス」などの寄生虫が潜んでいることもある。野菜にも土壌の細菌がついているほか、指先や傷口など皮膚の常在菌である「黄色ブドウ球菌」が付着し、サラダなど生で食べると食中毒につながる。

とにかく洗うこと、よく加熱して殺菌すること、生で食べるものや食べる直前の食品に菌を付けないことを意識したい。

食中毒か、受診すべきか判断のポイント

症状だけで食中毒かどうか見分けることは難しい。いわゆる「お腹の風邪」とも言われるウイルス性胃腸炎と、症状はそっくりで見分けがつかないからだ。

そのため、「発病の何日前に何を食べたのか?」「食事やバーベキュー、キャンプに一緒に行ったメンバーで同様の症状の人がいないか?」などの情報がとても有益だ。グループチャットで「誰かお腹壊してない?」などの下調べをすると良いだろう。

受診するかどうかは、症状の重さによる。一番避けたいのは「脱水症」だ。おしっこの色が茶色に近い濃さの場合、脱水症に陥っている。

本来はちょっとずつ経口補水液(吸収しやすい濃度の電解質が含まれている)を口にできるといい。でも吐き気が強くて飲めなかったり、飲んでもすぐ嘔吐してしまったり、そのうえ、1日に何度も下痢を繰り返しているとキケンだ。受診して点滴を受けるだけでも症状が楽になることがある。

また、あまりに腹痛がひどかったり、高熱が続いたり、便や吐いたものに血が混ざっていた場合も、受診をお勧めする。

なお、検査もあるのだが、「培養」といって、便などの検体に含まれる菌を増やしてみる方法をとるため、時間がかかる。すぐに結果の出るコロナやインフルエンザの抗原検査と異なり、結果が返ってくるまで1週間ほどだ。

だから検査結果を待っている間に自然に治癒してしまうことも多く、軽症ならわざわざ検査しても役に立たない。1週間たっても症状が続いている場合には、検査結果を踏まえて治療方針を立て、必要に応じて抗生剤治療をすることになる。

食中毒の場合、一緒に飲食をした人の多くが同じ症状であれば、検査で原因となる病原体を明らかにすることは重要だ。一方で、治療については、自宅療養で済むならば患者の負担が少ないこともある。その場合には検査にこだわらず、オンライン受診などを活用しよう。