ソーセージにサヨナラ? ドイツが世界No.1ヴィーガン大国へ
ソース: Newsweek / 画像: REUTERS/Michele Tantussi / 著者: モーゲンスタン陽子
<ドイツの若者の間では菜食志向が強かったが、ついに2020年、肉消費量が過去最低を記録した>
ドイツ料理といえば肉とソーセージ......そのイメージが過去のものへと変わりつつある。新型コロナウイルスのパンデミックを経て、食生活はこの1年で大きく変わった。以前からドイツの若者の間では菜食志向が強かったが、ついに2020年、肉消費量が過去最低を記録し、さらに2019年より39%多くの肉代替製品(大豆など植物ベースの肉風製品)が生産されたとドイツ連邦統計局(Destatis)が14日に発表した。
またドイツは、ヴィーガン(完全菜食主義、または動物性のものを完全に排除するライフスタイル)飲食料の新規商品発売の世界有数の市場でもある。ロンドンを本拠地とする私立市場調査会社ミンテルの2018年の調査によると、2017年7月から2018年6月に世界で導入されたすべてのヴィーガン飲食料のうち、新製品の15%はドイツからのもので、英国を抜いて世界トップとなった。
肉代替製品の生産が39%増加
肉代替製品についてのDestatisのデータは2019年から収集されているため、これが初めての前年比となる。2020年、ドイツ企業の肉代替製品生産量は2019年の60,400トン弱から83,700トン以上(+ 39%)と大幅に増加した。総価値は2億7,280万ユーロから3億7,490万ユーロに上昇した(+ 37%)。
肉製品の総価値は昨年、386億ユーロに達した。これは、401億ユーロという2019年の10年最高値から4%減少した。肉製品の総価値が肉代替製品の100倍以上あるものの、この変化は著しい。肉の消費はすでに長年減少傾向にあった。1987年には1世帯あたり1か月平均6.7キログラムの肉を消費した(肉類加工品は除く)が、2020年には約3分の1の2.3キログラムに減少した(1987年世帯平均2.5人に対し2020年は2人)。これは過去最低だ。豚肉の消費量が特に減少したという。肉の輸出入も2019年と比較してそれぞれ7.8%と6.5%減少した。
肉の消費減少の理由は?
パンデミック中の植物ベース食品の売上急増は、ドイツだけでなく世界中のトレンドだ。約1年前、ドイツやアメリカの食肉工場でクラスター感染が多く発生した。食肉加工工場で働く、おもに移民たちの置かれた劣悪な環境に注目が集まるとともに、「なぜ肉が安いのか」について人々の関心が高まった。北米では、食肉加工工場の一時閉鎖が相次ぎ、食品供給ルート確保への懸念も広がった。これらのことが相まって、欧米で多くの人が食生活を見直すきっかけになったようだ。
さらに、環境への配慮もある。とくに効果的なのは、牛肉食を減らすことだ。食用牛の飼育は食品産業のなかで最も炭素を多く消費し、農業排出の60%以上を占めるといわれる。食品1kgあたりの平均温室効果ガス排出量(kgCO2-eq)を比較すると、約60である牛肉はすべての食品中で圧倒的に多く、これは豚肉や鳥肉の10倍前後だ。チーズや養殖エビ、植物性ではコーヒーなども高めだが、2位のラム肉でさえ半数以下の24.50であることを考えると、牛肉食を減らすことがかなり環境にプラスになることがわかる。
このような事実について教育を受けている現在のティーンエイジャーやミレニアル世代は特に環境に対する意識が高い。ドイツ連邦食糧・農業省BMEL の2020年版レポートによると、調査対象者の39%がパンデミック中に農業を重要視するようになり、さらに青年や若年層になると47%に上る。
ミレニアル世代やZ世代が支持
近年の複数の調査によると、ドイツのヴィーガン人口は113万人から260万人といわれている。2008年の全国調査では8万人未満だったというから、かなりの増加だ。特に、ドイツの食品市場におけるベジタリアン製品の売上高はパンデミック中にほぼ40%増加し、ヴィーガン製品の売上高は59%も増加した(MeticulousResearch)。
ドイツは、ヴィーガン食品および飲料セクターでの新規商品発売の世界有数の市場でもある。2017年7月から2018年6月の間ドイツで発売された食品および飲料の14%がヴィーガンだった(その5年前は4%)。また、同時期に世界で導入されたすべてのヴィーガン食品および飲料のうち、ヴィーガン新製品の15%はドイツからのものだった。続く英国14%、米国12%と、この3か国が世界でも抜きん出ている。
消費者は商品購入の際、ヴィーガン検証マークで品質を確認するが、Vレーベルやヴィーガンフラワーでライセンスされている製品の数も大幅に増加している。ドイツではヴィーガンフラワーに2020年だけでも1万5千の製品が登録され、今年4月には5万目の製品の登録を記録した。
見本市などでも変化は顕著だ。ドイツには世界有数の見本市会場がいくつもあり、パンデミック以前は多くの商業見本市が開かれていた。最大の食品フェアであるアヌーガ(ケルン)や、オーガニック食品専門のビオファ(ニュルンベルク。21年は初のオンライン開催)だけでなく、フランクフルトブックフェアでも近年、ヴィーガンのトレンドを取り上げている。
2011年にヴィースバーデンで始まったヴィーガン見本市ベジーワールドは徐々に参加都市を増やし、2019年には11万人がヨーロッパとアジアの20都市22会場を訪れ、ヨーロッパ最大のヴィーガンフェアに成長した。訪問者の約71%は女性で、年齢層は16歳〜25歳(32%)次いで26歳〜35歳(31%)と、若年・青年層が大部分を占めていた(ベジーワールドアニュアルレポート)。
完全菜食でなくても
パンデミック中、ドイツ人の34%が赤身の肉の消費を積極的に削減しており、17%が大豆バーガーやベジタリアンソーセージなどの代替製品を食べるようになった(ミンテル)。YouGovの調査では、女性の33%と男性の28%が、商品の選択肢が十分にあるならベジタリアンまたはヴィーガンになることを考えても良いと述べた。
さらにガーディアンによると、独仏英合同の別の調査でも、ドイツ人回答者の約42% が何らかの形で肉の消費を意識的に削減しているという。研究に取り組んだ英バース大学の心理学者であるクリストファー・ブライアントは、ドイツは以前想定されていたよりもはるかに早く肉消費に対する態度の転換点に達したと述べている。ベジタリアンやヴィーガンの他にも、ペスカタリアンまたはフィシィタリアン(魚はOK)、フレキシタリアン(菜食中心に時々は肉もOK)など、形態はいろいろある。特にフレキシタリアンのアプローチは環境保護論者の間で支持を得ており、英国気候会議による最近の報告では、肉と乳製品の消費を完全に削減せずとも、20%〜40%削減するだけでも効果があるようだ。(ちなみにフランスでは回答者の68.5%が制限なしに肉を食べると主張。)
日本と同様、豊かな食文化と伝統を誇るヨーロッパで、食生活を簡単に変えるのは容易なことではないだろう。だが、完全に肉食を諦める必要はない。牛肉を食べる回数を少し減らして鶏肉にするだけでも環境にはプラスになる。あるいは代替品を利用すれば、肉の味わいそのものは継続して楽しめる。自分でダイエットの選択ができない小さな子供たちに特定のライフスタイルを強要するのは個人的には反対だが、大人にはできることがある。
今後のニューノーマル
ロックダウンの1年で、ドイツのオンラインショッピングは急激に充実した。特にケータリングサービスは素晴らしい。出前専門ではなくちゃんとしたレストランがデリバリーを始め、また、家で少し手を加えればプロの味が楽しめる「お料理キット」タイプのサービスが爆発的に増えた。
例えば、ベルリンに本社を置くハローフレッシュは2020年、世界中で6億食以上を提供し、総売上高は37.5億ユーロで前年比111%の成長を見せた。営業利益は5億520万ユーロで、2019年のなんと10倍以上だ。2021年にも20〜25%の成長を見込んでいるという。毎週30前後のメニューから選べる仕組みだが、半数はベジタリアンおよびヴィーガンメニューだ。代替肉メニューもある。
肉の代替品は今や高級スーパーだけでなくディスカウントストアでも普通に売られている。都市部のショッピングモールには代替肉バーガーショップなども登場した。筆者は数品しか試したことがないが、味はなかなかのものだ。風味自体はあまりないので、チキンナゲットでもシュニッツェル(豚や仔牛のカツレツ)でも味自体はあまり変わらないが、衣がサクサクしていて食べ応えがあるし、安い肉の揚げ物を食べたときの嫌な感じもない。もう1つ代替プロテインの有望株といえば昆虫食だが、こちらには気分的に抵抗がある人でも、植物ベースの代替肉なら始めやすいかもしれない。
当面の問題は価格だろう。一般的になったとはいえ、通常価格の本物の肉に比べるとやはり少々値が張る。だが今後技術が進み消費が増えたら、価格もどんどん下がっていくだろう。
各国でワクチン接種が着々と進み、社会は「バック・トゥ・ノーマル」への道を模索し始めている。しかし、「ノーマル」自体が変化しつつある。マスクや手洗いは今後も「ニュー・ノーマル」として続くだろうし、リモートワークもすっかり定着した。でも、とりわけ大きく変わったのは、食生活ではないだろうか。
代替肉がニューノーマルになる日もそう遠くないかもしれない。