ペットボトル、カップ麺など、食品の容器から有害物質が溶け出すリスクはあるのか

ソース: News-Postseven / 画像: Getty Images / 著者: 女性セブン

プラスチック製品に含まれる化学物質が飲料に溶け込んでいるとの説が(Getty Images)

 人々の健康意識は年々高まっているが、病気の原因としてまだ知られていないことは意外と多い。カップ麺や水、ヘルシーなお総菜にも、実は“毒”が滲み出ているかもしれないという。

 世界の肥満率は上昇の一途をたどっている。WHOによれば、現在、肥満患者の人数は1975年のほぼ3倍、小児と若年層は実に5倍。そして近年、それは単なる食べすぎや運動不足ではなく、まったく異なる原因があることがわかってきた。

 今年1月、ノルウェー科学技術大学准教授のマーティン・ワーグナーさんらのチームが「ペットボトルやプラスチック製品に含まれる化学物質が飲料や食品に溶け込み、肥満リスクを上げている可能性がある」と発表したのだ。

「プラスチックに含まれる化合物は、人間の細胞を脂肪細胞に成長させ、脂肪を蓄積するように誘導する可能性があることがわかりました」(ワーグナーさん)

 ワーグナーさんらは、飲み物やボディーソープのボトル、ポリ袋、ラップ、食器用スポンジ、冷凍バッグなどの34種類のプラスチック製品から検出した5万5000種類以上の物質の中から、629種類の化学物質を特定。

 そして、このうち11種類が「ビスフェノール」「フタル酸エステル」といった「代謝かく乱物質」と呼ばれる有害物質だった。主に生殖機能に影響することが示されているほか、体重や体脂肪の増加にも影響を与えていることが判明した。ただの水が入ったペットボトルやサラダの容器が、私たちを太らせ、健康を害している可能性があるというのだ。

プラスチックが免疫力を下げる

 あらゆるプラスチック製品には、性能をよくするためにさまざまな添加剤が使われている。東京農工大学教授の高田秀重さんが言う。

「劣化を遅らせるための紫外線吸収剤や酸化防止剤のほか、形を整える可塑剤や剥離剤、難燃剤、染料など、プラスチックにはさまざまな添加剤が練り込まれています。これらの物質の中には、ホルモンの働きを乱す『内分泌かく乱物質』も少なくない。肥満だけでなく、乳がんや子宮内膜症、精子数の減少などにつながる可能性が示唆されています」

 健康被害のあるホルモンといえば、1998年頃に問題になった「環境ホルモン」のことを覚えている人は多いだろう。当時、主にカップ麺などの容器に使われている発泡ポリスチレンから有害物質が溶け出し、体にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があることが報道され、話題になった。この騒動について、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが解説する。

「環境ホルモンの問題は1990年代頃から注目されるようになりました。もともと日本では水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくといった公害の集団発生の歴史により、窒素や水銀、カドミウムなどの毒素が人体に影響することが広く知れ渡りました。そこへさらに、これらの毒素とは異なり、長期的に摂取し続けることでじわじわと健康を損なうものとして、新たにプラスチックが問題視されるようになったのです」

日常的に使っているさまざまな容器から環境ホルモンが検出(Getty Images)

 もともと、プラスチックは有機化学物質の一種で、基軸になるのは、人間の体の中にも存在する炭素と水素。この構造が生物のホルモンに似ているため、影響を与えやすい。

「細胞の中でホルモンが働くためには、ホルモンの種類ごとに形が異なる鍵穴のような『受容体』に、ホルモンがピッタリとはまることで、内臓や神経に指令が送られます。ところが、ある種の化学物質は、この鍵穴にはまってしまい、ホルモンの働きを阻害するのです。これが『内分泌かく乱物質』であり、一般に『環境ホルモン』と呼ばれるものです」(高田さん・以下同)

 ホルモンというと、男性ホルモンや女性ホルモンなど、生殖にかかわるものが連想されるが、それだけではない。血糖値を抑えるインスリンや心の安定にかかわるセロトニン、やる気を出すアドレナリン、眠りを促すメラトニンなど、ホルモンの数だけ鍵穴(受容体)があり、かく乱物質の被害は全身に及ぶ。

「1980年代中盤から問題になったダイオキシンも、環境ホルモンの一種です。薬物代謝酵素の受容体に結合し、免疫に欠かせないビタミンAを減少させ、免疫力を低下させたことにより、北海でアザラシの大量死が起きました」

 高田さんは「人間の体でも同じことが起こる可能性は高い」としたうえで、こうしたかく乱物質が、いままさに、人類の免疫力の低下を招いている可能性を指摘する。

「かく乱物質の種類によっては、免疫に関連する受容体に影響することは充分に考えられます。現在の新型コロナウイルスのまん延も、かく乱物質が原因の1つである可能性はゼロではないでしょう」

 一方、ペットボトルやカップ麺の容器に使われているフェノール類は、生き物の体の中で女性ホルモンのような働きをすることが多い。オスのメダカをメスに変えたり、人間でも、妊娠している場合は、胎児に影響が及ぶという。

「こうした作用が指摘され、フランスでは2010年代の時点で、危険性がある環境ホルモンの『ビスフェノールA(BPA)』を含む製品はすべて禁止されました」(室井さん)

 高田さんの研究では、ジッパーつき保存袋、スチロール容器、ポリ袋、ストロー、食器用スポンジ、ポリエチレン手袋などの日用品のほか、いまや必需品となった不織布マスクなども対象とし、環境ホルモンが含まれているかどうかを検証した。その結果、35品目中33品目から環境ホルモンが検出された。BPAはハンバーガーなどの包み紙のほか、かつては哺乳びんにも使われており、問題になった。

「一部の不織布マスクからも、環境ホルモンが検出されました。ですが、マスクは直接口の中に入れたり、食品に付着するものではないので、一般的な使い方をしていれば、心配はありません。ただし、こうした製品の使用後はポイ捨てなどはせず、きちんと処分してください。雨で流されて海に入れば、ウミガメや魚が食べてしまったり、めぐりめぐってヒトの体にも入りかねません」(高田さん)

紙コップも危ない?(Getty Images)

紙コップも危ない?(Getty Images)

缶詰、紙コップから“毒”が溶け出す

 ワーグナーさんによれば、これらの化学物質のすべてが、一般的な使い方のもとに溶け出すわけではないというが、安心はできないとも。

「私たちの調査では、製品に含まれる化学物質の最大80%が、水に溶け出すことが示されました。つまり、プラスチック製品に含まれる内分泌かく乱物質は、かなりの割合で、私たちが口にする食べ物や飲み物に混入しているということです」(ワーグナーさん)

 前出のカップ麺容器の環境ホルモンは1998年に厚労省、農水省、通産省が「健康に対する問題は少ない」としている。ところが、今回のワーグナーさんらの研究では、カップ麺容器からも大量の化学物質が溶け出し、体内に取り込まれる可能性が示された。

「かつて問題になったのは、スチレン樹脂という、カップ麺の容器の原料になる物質で、これには厚労省ほかの言うとおり、内分泌かく乱作用がないことがわかっています。しかし、このスチレン樹脂に添加するその他の化学物質の安全性は不明です。

 私たちの検証でも、一部のカップ麺容器からは、環境ホルモンが検出されています。特に、内側がプラスチックでコーティングされた紙のカップからは、継ぎ目に使われる接着剤からと思われる添加剤が多く検出されました。一方、カップ焼きそばや丼のような形の商品に多い発泡スチロール製のものからは、別の種類の有害な添加剤が検出されています。これらの添加剤には表示義務がないため、検証しない限り、安全かどうかの判断はつかないのです」(高田さん)

 こうしたかく乱物質は高温になると溶け出しやすくなるため、沸騰したお湯を注ぐカップ麺は、よりリスクがあるとも考えられる。同様の理由で、カフェなどで提供される紙のカップやそのふたにも、かく乱物質の危険性がある。ウェルネスクリニック神楽坂院長で『太りたくなければ、体の「毒」を抜きなさい!』著者の賀来怜華さんが言う。

「紙コップの内側に塗られている耐熱・防水コーティング剤にはBPAが含まれており、これは飲料に溶け出して体に取り込んでしまいやすい」

 BPAは缶詰の内側のコーティング剤にも使用されており、妊娠中の女性の体内にBPAが蓄積すると、子供が精神疾患や肥満になりやすくなるという報告もある。

「BPAは、新生児のへその緒から検出されたこともあるほか、乳がんや子宮内膜症の発症との関連も示唆されています。事実、子宮内膜症患者の血液からBPAが検出されたという報告もあります」(高田さん)

食品用ラップの使用もできるだけ避けたい(Getty Images)

食品用ラップの使用もできるだけ避けたい(Getty Images)

 食品ジャーナリストの郡司和夫さんによると、欧米ではBPAは2010年代から危険視されており、いまでは「BPAフリー」と明記されたプラスチック製品も多く販売されている。

「現在はBPAの使用されていない製品が増えていますが、北京大学と岐阜薬科大学の共同研究によると、BPAフリーの製品に含まれている代替物質の『フルオレン-9-ビスフェノール(BHPF)』にも、女性ホルモンのエストロゲンの働きを阻害する作用があることがわかったのです。マウス実験では、子宮が大きくなったり、生まれてきたマウスの体重が軽くなるなどの結果が報告されました」(郡司さん)

 身の回りのかく乱物質は、BPAだけではない。近年の研究では、可塑剤のフタル酸エステルの一種であるフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が、子供の第二次性徴を極端に早めたり、遅らせたりするとわかり、玩具への配合が禁じられている。

「フタル酸エステルは、食品包装のほか、床材、マニキュアのひび割れ防止剤、ヘアスプレーの詰まり防止剤、香料の持続剤として使用されることがある。また、同様に内分泌かく乱作用のある紫外線吸収剤のUV-Pは、ペットボトルのふたやレジ袋など、さまざまなプラスチック製品に添加されています」(高田さん)

 もはや、ペットボトルやレジ袋を触らない日の方が少ないだろう。日常生活に欠かせないあらゆるものに“毒”が含まれ、私たちの体に少しずつ蓄積しているのだ。

脳をダマして侵入する“肥満物質”

 肥満を促進するかく乱物質のことをまとめて「オビソゲン」と呼ぶ。オビソゲンは、かく乱物質の中でも特に女性ホルモンに構造が近く、脳を“ダマして”体内に侵入してくる。

「本来は『脳関門』という関所の働きにより、こうした有害物質は脳の中に入ることができません。しかし、オビソゲンはその構造から、脳関門を突破して、ホルモンバランスに影響するのです」(郡司さん・以下同)

 オビソゲンの中には、主にアメリカなどで肉牛の成長促進剤として使われているものもあるという。

「正常な遺伝子を肥満遺伝子に変えることで、血糖値を下げる働きのあるインスリンの分泌を狂わせ、太りやすくします。これにより、肥満や糖尿病のリスクが上がることも考えられるでしょう。実際に、糖尿病患者の血液からは、かなりの確率でオビソゲンが検出されています」

 日本では家畜への成長促進剤の使用は禁止されている。しかし、南米では促進剤を使った牛肉を食べていた女の子に、10才未満で初潮が来るなど、異常な発育が見られ、問題視されている。

「オビソゲンはホルモンをかく乱する作用があり、不妊や月経の問題とも関連します。さらに、腸の粘膜にダメージを与え、そこから毒が入り込む『リーキーガット症候群』を引き起こす可能性も指摘されています」(賀来さん)

コーヒーサーバーの抽出口にも、BPAがコーティングされている(Getty Images)

コーヒーサーバーの抽出口にも、BPAがコーティングされている(Getty Images)

ペットボトルの水より缶コーヒーが安全

 プラスチックゴミが劣化したものや食器用スポンジの繊維くずなど、直径5mm以下の微細なプラスチックのことを「マイクロプラスチック」という。

「環境問題として語られることが多い一方で、人体にも大きな害がある。消化器から体内に取り込むと、腸の粘膜バリアを通り抜けて血流に乗り、細胞に蓄積し、心臓や血液にダメージを与えます。すでに、ヒトの胎盤から検出された例もあります」(高田さん)

 マイクロプラスチックは、海や空気中に漂うものも含めると50兆個以上も存在するとされ、もはや避けることは難しい。高田さんによれば、ペットボトルで水を飲むと、水道水の20倍のマイクロプラスチックを摂取することになるという。地球環境に悪いものはやはり、人間の健康も脅かすのだ。

 これほどの危険があっても、いまの日本でプラスチック製品を絶って生活することは不可能に近い。だが、BPAなどの有害物質の性質を利用して、溶け出すのを抑えることはできる。

「当然ながら、プラスチックでパックされたものを買わないのが最も有効ですが、買ってしまったら、せめて容器に入ったまま電子レンジで加熱しないこと。化学物質の多くが高温で溶け出す性質のため、温める際はガラスや陶器の容器に移し替えるようにすべきです」(ワーグナーさん)

 ペットボトルの場合は、古い容器に注意すること。何度も洗って再利用するとプラスチックが劣化し、かく乱物質が溶け出しやすくなる。

「ペットボトルの飲み物を凍らせるのも、かく乱物質が滲出しやすくなります。飲み物を買うなら、ペットボトルよりも缶がいい。食べ物の缶詰とは異なり、缶コーヒーなどは内部にコーティングがされていないので、かく乱物質の危険は少ないのです」(郡司さん)

 一方、缶詰の中では特に、トマトやさばのみそ煮などは、BPAが溶け出しやすい。酸性のもの、脂っこいものに滲出しやすいため、これらは加工されていないものを買うべきだ。ワーグナーさんによれば、プラスチックに含まれる有害な化合物の中には、意図的に添加したわけではないものも多いという。

「残留物なども含めると、プラスチックの化合物は1万種類以上です。まだ研究されていないものも多く、その危険性はいまだに過小評価されています」(ワーグナーさん)

 近年ようやく、プラスチック製品の人体への危険性に関する研究が本格的になってきた。これまで当たり前に使ってきたものを見直す機会が来たと高田さんは語る。

「プラスチックの有害物質は、長い年月をかけて少しずつ体にたまるので、取り込んですぐに健康を害するものではありません。危険なプラスチック製品をできるだけ使わず、口にしないようにいまから意識するだけでも、充分に健康を取り戻すことができます」(高田さん)

 賀来さんは、「正しい食事を摂り、腸内環境を整え、そのうえで身近な有害物質を避けることが、“解毒”のための第一歩」と語る。

 できることから始めたい。

※女性セブン2022年5月26日号