うつ病のリスクを下げるフルーツが、最新の研究で判明

Source : Women’s Health

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心理学者と栄養士の意見も併せてチェック。

By Korin Miller and 伊賀本 藍公開日:2025/04/04

腸と脳は影響を及ぼし合っている

これまでの研究から、腸と脳は日頃から会話していて、お互いの健康状態に影響を及ぼすことが分かっている。つまり、私たちの食べる物(と、その食べ物が腸内で作る細菌)は、私たちの思考や気分に大きな影響を与える可能性があるということ。そして、このたび発表された新しい研究結果によると、その影響はメンタルヘルスにも及ぶ可能性があるという。

微生物学誌『BMC Microbiome』に掲載された今回の研究では、柑橘系のフルーツとうつ病のつながりが明らかになった。言い換えると、毎日の食事にオレンジを加えるくらいのシンプルなアクションで、うつ病の発症リスクを下げられる可能性があるということ。

もちろん、うつ病には多くの要素が絡んでいるため、オレンジを食べるだけでメンタルヘルスの状態が劇的に改善するというわけではない。しかし、うつ病のリスクを下げる方法を1つでも多く知りたいという人にとっては、間違いなく注目に値する研究結果。

そこで今回は、この研究で明らかになったことと、その研究結果に対する心理学者と栄養士の意見をまとめてみた。

今回の研究で分かったこと

今回の研究では、米国のナースヘルス研究2(慢性疾患の危険因子を調べるために、女性看護師の健康状態を長期的に観察する研究)に参加した女性約3万2500名のデータが分析された。研究チームは、それとは別に300名以上の男性のデータも分析し、その情報と検便サンプルをもとに、参加者の腸内フローラの状態を調べた。

その結果、柑橘系のフルーツを毎日食べると、うつ病の発症リスクが約20%低下することが判明。これは柑橘系のフルーツに限ったことで、他のフルーツや野菜では同じ結果が見られなかった。

研究チームがさらに詳しく調べたところ、柑橘系のフルーツを食べる人の腸にはフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(以下F.プラウスニッツイ)という細菌がいて、うつ病でない人の腸には、その細菌が多いことも分かった。

この論文の結論部分で、研究チームは次のように述べている。「これらのデータからは、うつ病予防における食事の重要性がハッキリと分かります。腸内フローラの状態によって、メンタルヘルスに及ぼす柑橘系フルーツの影響が変わる理由も見えてきます」

腸内細菌がメンタルへルスに影響を及ぼす仕組み

栄養療法クリニックKeatley Medical Nutrition Therapyの共同オーナーで公認管理栄養士のスコット・キートリー氏によると、腸内細菌(その集合体を腸内フローラと呼ぶ)は、メンタルヘルスの管理において「重要な役割」を果たす。なぜなら腸内細菌は、神経伝達物質(細胞同士の会話を助けるメッセンジャー)の生成、体内の炎症、腸バリアの機能に影響を与えるから。

「F.プラウスニッツイのような一部の腸内細菌は、脳腸相関に関係しています」とキートリー氏。「脳腸相関は、脳と腸の間にある双方向のコミュニケーションシステムです」。この細菌は体内の炎症を減らすのに役立つため、特に重要なのだそう。

「慢性的な炎症は、うつ病につながることが分かっています」とキートリー氏は続ける。「そのため、(柑橘系のフルーツを食べて)腸内のF.プラウスニッツイを増やせば、炎症マーカーが減少して、気分の調節が効きやすくなるかもしれません」

ただ、脳腸相関の存在自体は何度も実証されているけれど、それが細胞レベルで“どのように”機能するかはまだ明らかになっていない。「腸の健康状態とうつ病が“どのように”つながっているのかは、まだ完全に分かっていません」と説明するのは、米ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターの臨床助教授でポッドキャスト『Mind in View』共同司会者のシーア・ギャラガー博士。「しかし、そこにつながりがあることは間違いなく分かっています」

うつ病のリスクを下げるためには、オレンジを何個食べるべき?

今回の研究結果は、中サイズのオレンジを1日1個食べると、うつ病のリスクが低下する可能性を示している。しかし、この研究では柑橘系のフルーツが全てひとくくりにされている。つまり、グレープフルーツが好きな人は、それを1日1個食べていれば、メンタルヘルスに対する効果が期待できるということ。

柑橘系のフルーツはなぜ特別?

柑橘系のフルーツには、メンタルヘルスの改善に効果的と言われる理由がいくつかある。

「一番大きい理由は、ナリンゲニンやホルモノネチン(フォルモノネチン)などのフラボノイドが高濃度で含まれていることです」とキートリー氏。

これらのフラボノイドは、うつ病予防に欠かせないF.プラウスニッツイの成長を促進するだけじゃない。腸のプロセスを調節して、気分を良くする神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)の分泌量も増やしてくれる。

ただし、今回の研究では、柑橘系のフルーツがメンタルヘルスに影響を与えることが“証明”されたわけではなく、この2つの間につながりがあることが判明しただけ。

また、ニューヨーク・プレスビテリアン病院付属ウェイル・コーネル医科大学の精神医学助教授、ゲイル・サルツ医学博士によると、今回の研究は、柑橘系のフルーツが腸に与える影響の一側面(細菌に与える影響)を見たに過ぎない。

「柑橘系のフルーツは確かに腸内細菌に影響を与えるかもしれませんが、ビタミンCが多いといった他の特徴も持ち合わせています」とサルツ博士。「今回の研究では、その点も考慮することができたでしょう」

うつ病のリスクを下げる食品は他にもある?

あるかもしれない。これまでの研究により、超加工食品の摂取量が多いと、うつ病のリスクが高くなることが分かっている。よって、心身の健康のためには、未加工の自然食品を食べたほうがいいかもしれない。

ギャラガー博士によると、メンタルヘルスのためを思うなら、野菜とフルーツ、全粒穀物、原材料の少ない食品を重点的に摂取するのが「無難な選択」。とはいえ、食事の80%は健康的なものにして、残りの20%は自由に食べる“80:20の法則”に従うのも悪くないそう。

キートリー氏が勧めるのは、ヨーグルト、キムチ、ケフィアのような発酵食品。このような食品には、脳の神経伝達物質の量を調節するのに役立つプロバイオティクスが含まれている。オメガ3脂肪酸を含むナッツやシードもおすすめ。炎症を軽減し、脳と腸のコミュニケーションを円滑にしてくれる。

豆類、脂の多い魚、緑の葉物野菜も役に立つ。「このような食品から成る食生活を送っていれば、腸の健康が促進されて、全身の炎症が軽減し、神経伝達物質のバランスが良くなります」とキートリー氏。「そして、それがうつ病のリスク低下につながります」

柑橘系のフルーツは抗うつ剤より効果的?

今回の研究は、うつ病の“予防”に焦点を当てている。そして、ギャラガー博士いわく抗うつ剤は、うつ病の“治療”に使われるもの。そのため、すでにうつ病の人が柑橘系のフルーツを食べることで、その症状が改善するかは、今回の結果を見ても分からない。

しかし、「薬をやめて、その代わりにオレンジを食べ始めるようなことはしないでください」とギャラガー博士は注意を促す。サルツ博士も「今回の研究結果をもとに、オレンジが重度のうつ病の治療薬になると思ってはいけません」と言っている。

とはいえ、メンタルヘルスの観点から見ると、今回の研究結果は「エキサイティング」とギャラガー博士。「食生活に柑橘系のフルーツを取り入れることは誰にでもできますし、(今回の研究結果を抜きにしても)恐らくそうするべきでしょう。それが体に良いことは確かですから」

※この記事はアメリカ版ウィメンズへルスからの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。

Text: Korin Miller Translation: Ai Igamoto