化粧品ビジネスと地球環境保護は共存できる? “持続可能なプラスチック”を専門家が考察
ソース: Elle / 画像: Getty Images / 著者: Nathalie Lima KONISHI
脱プラスチックが各業界で推進されるなか、その波は化粧品業界にも波及。しかし、果たして本当に脱プラスチックが相対的に見て環境に良いものなのか、今一度立ち止まって考えてみたいところ。そこでUK版「エル」が、メーカーのパッケージを担当する技術者をはじめ、専門家たちにインタビュー。プラスチックを悪者と決めつけてしまう前に、“環境に優しい”の根拠を見直し、日々のコスメ選びの基準にしてみよう。
持続可能なプラスチックは存在するか
“美容業界はプラスチックにまつわる環境問題を抱えている”というテーマは、美容好きの人であれば一度は聞いたことがあるはず。実際にはその通りで、私たちは環境とプラスチック危機の問題に直面している。
しかし、美容業界とプラスチックの関係を紐解いてみると、プラスチックが必ずしも最大の悪者ではないことも、事実といえるだろう。
なぜなら、プラスチックの代わりとなる紙やガラスが、常に持続可能な未来において最上級の選択であるとは限らないからだ。
また、資源採取からリサイクルまでの全体を評価する“ライフサイクル分析”を見る技術者たちは、製品が本当に持続可能なものかを見ることも、重要といえる。
使用する原材料や輸送環境コスト、廃棄、副産物、その他に関して広い目で見たとき、美容業界における製品のライフサイクル分析を解析すると、プラスチックは紙やガラスなどの代替品と比較しても、より良いものである場合がある。
ここに、プラスチックが持続可能な容器の解決策の一つであるという4つの議論がある。考察すべきポイントは、水の使用量、消費者が簡単にリサイクルできるか否か、二酸化炭素の消費量、そして製品の賞味期限だ。
もちろん、プラスチックが必ずしも最善のオプションではないという実例もある。特に黒いプラスチックと、使い捨てのプラスチックは注意をしなければならない。
一つずつ考察していこう。
【議論1】水の消費量を考える
水の消費量は、環境において大きな問題の一つ。地球環境において次に直面する重要な課題になると予想されている。
「水は、木から紙を作る工程で不可欠なものです」と話すのは、「KMI Brands」の包装の技術を担当するダン・コピンズ。
「紙の製造プロセスでは非常に多くの水が消費されます。その一部は繊維自体の中に、あるいは蒸気となって大気中に失われます。木の繊維を使うものはすべて、大量の水を使うのです」とコピンズ氏は結論づける。
それに対してプラスチックは、同じような量の水を消費をしない。そしてプラスチック製造に使用される水は再利用されるのだ。
【議論2】消費者のリサイクル意識
正直言って、化粧品の空容器を植物用の鉢やインテリアとして生まれ変わらせたことが、これまで何度あるだろうか。
製品が環境に優しく、パッケージに“第二の人生”を与えることができると自負していても、それを消費者が実行するとは限らない。
使用済みの化粧品のプラスチック容器を素早く便利に破棄することができるのは、リサイクルを行ううえでの大きな鍵で、プラスチックはこれをより実行可能にしている。
プラスチックのリサイクル率は今後も上昇傾向に
その一方で、まだ統計の数が乏しいリサイクルの分野において、プラスチックが実際にリサイクルされているのかどうかが、大きな関心事となる。
リサイクルへの取り組みは極めて初期のステージにあり、2003年になってやっと家庭廃棄物リサイクル法が導入され、2010年に施行されたばかりだ。しかしコピンズ氏は、これに対して極めてシンプルな理由を挙げる。
「リサーチがまだ十分に行えていない関係で、リサイクル率は理想値よりも低い値を示しています。しかし今後のリサイクル率は、大きく成長するものと予想されています」と彼はつけ加える。
近年では、イギリスで「WRAP(廃棄物資源行動プログラム)」のようなツールが登場したことで、自分が出したゴミが正しくリサイクルされるか確認することもできるようになった。
【議論3】二酸化炭素の削減
「私たちが使用してきたプラスチックは主にポリプロピレンで、これは市場において2番目に多くリサイクルされています」とコピンズ氏は言う。
「使用済みのリサイクルポリプロピレンを製品全体に使用するなど、古い材料を再利用することで二酸化炭素排出量を削減しているのです」
製品の重量もまた環境負荷の問題になる。
「プラスチックはほとんどの資材、例えばガラスや紙、そしてアルミニウムより重量が軽いのです。これは製品を運搬するためのエネルギーを減少させて、これによりさらに二酸化炭素の消費量を減らしてくれます」
プラスチック回収も重要な任務
「ザボディショップ」の“プラスチック フォー チェンジ”という活動もまた、環境に取り組んでいるフリをする上辺だけの情報(グリーンウォッシュ)のアンチテーゼとして、取り組む完璧な例の一つだ。
同ブランドは2019年からコミュニティフェアトレードの元、インドのバンガロールからスタート。既存の製品の中から、リサイクル可能な多くのプラスチック資源を正しく回収する活動を行うことで、無職の人たちへの適正な収入と安全な労働を保証している。
この三極のアプローチは社会に変化をもたらした。環境への尊重はもちろん、他のビジネスが後に続くように影響を与えている。
さらに、「ザボディショップ」のボディバターやボディヨーグルト、ボディスクラブ、そしてヘアケア製品のボトルは、すべて環境に優しい再生プラスチックである“PCRプラスチック”からできている。また、その半数が“コミュニティ フェア トレード リサイクル プラスチック”によるものだ。
【議論4】製品の使用期限と品質管理のメリット
プラスチック製パッケージが使われている化粧品の使用期限は、他の多くの業界(例えば食品業界)の製品と比べても、非常に長いものになっている。
プラスチック製パッケージによって、使用期限が伸びることで生まれる主なメリットは、私たちが慌てて製品を消費する必要がなく、品質悪化による破棄を防ぐことができることだ。
加えてメーカーは廃棄するリスクを回避できるため、より多く化粧品を製造することができる。その結果、効率も上がるのでよりカーボンコンシャスものになるという。
“あえて”プラスチックを使うブランド
自然派デオドラントブランド「プロバーブ」は、多くの調査を行った結果、耐久性のあるプラスチックを使う選択をしている。
「容器は強く耐久性があり、こすれても傷がつかず、食洗器を使っても旅行に持って行っても耐久性がある必要があります。私たちがプラスチックを使用した理由はそこにあります」と、「プロバーブ」の共同創設者カースティ・シェリフは説明する。
成分構成もまた、ここでは問題になる。防腐剤なしで“クリーン”とラベルに表示された製品は、環境に良いと考えられるかもしれない。しかし、リサイクルの難しいガラスのジャーに入れられ、3カ月ごとに回転させなければならない製品は、2年の使用期限をもつプラスチックボトルよりはるかに地球に害を及ぼすと考えられる。
【問題1】再利用を妨げるブラックプラスチック
「KMI Brands」は、リサイクルが困難なことで有名なブラックプラスチックの使用を可能な限り避けている。
「リサイクル業者は、赤外線(IR)カメラを使って処理中の製品の中を検知します。しかし、黒色の袋は赤外線カメラによる検知ができません」
「黒色以外はリサイクル可能です。しかし、暗い色であるということは、再利用するには限界があります。多くの場合、明らかに焼却するゴミや埋め立てるものを入れるときは黒のごみ袋を使います」
この理由から、透明なプラスチックはよりリサイクルがしやすいものといえる
【問題2】リサイクル不可なプラスチック
使い捨てプラスチックはそれ自体が悪者で、この記事の範囲をはるかに超えている。一度しか使われずに捨てられるプラスチックが、地球にダメージを与えるのを理解することは容易なはずだ。
「使い捨ての最大の問題は、再利用する価値がないものを作ってしまっているということ。商品のライフサイクル設計が考えられていないシステムといえるでしょう」
「私たちが便利さに慣れてしまっているため、使い捨て製品は排除することが難しいのも事実です。私たちは、これらのアイテムに対する心持ちを変える必要があります」
抜本的な解決策とは言えないが、マーケティング用語の変更が消費者の行動を変えるのに役立つ可能性があると、コビンズ氏は提案する。
例えば、使い捨ての代わりに、シンプルに“洗濯可能”という言葉を使うことで、消費者に再利用してもらえるように促すことができるかもしれない。
【結論】完璧な包装容器の解決策は存在しない
クリス・ダーミットは、自著「プラスチック・パラドックス」の中で、「最良の選択は最も害の少ないものを選ぶことだ」と指摘する。美容業界においての問題の核心は、完璧なパッケージの解決策は今のところ存在しないということだ。
「“最良”と“最も持続可能”な解決策は、相反するものではなく、パッケージの各要素は、どのように廃棄されるかまでを考えることによって、その調達方法を理解することが重要です。それらの要素には広い範囲の変数があるので、場合によっては妥協も必要です」とコピンズ氏は説明する。
したがって、もし企業が完璧かつプラスチックを全く含まないパッケージや、持続可能な解決策を約束したり、エコフレンドリーなものを売ろうとしている場合は、自分自身で少しだけ情報を掘り下げてみよう。
最上の選択肢としてプラスチックが登場して、あなたを驚かすかもしれないからだ。
Translation & Text : Nathalie Lima KONISHI