「ブルーベリー」のポリフェノールに免疫を調節する作用 炎症性腸疾患の予防や治療につながる可能性

ソース: JPALD / 画像: JPALD/ 著者: JPALD

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東京理科大学は、ブルーベリーなどに含まれるポリフェノールが、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患にみられる免疫細胞の過剰な活動を効果的に抑えることを明らかにした。
ブルーベリーのポリフェノールを経口投与し、症状の進行を抑えられることを実験で確かめた。

ブルーベリーのプテロスチルベンに免疫抑制の作用が

野菜や果実、ハーブなどに含まれるポリフェノールは、抗酸化性や抗炎症性といった性質をもっており、食事によって体に取り込むと健康維持に役立つ。

ポリフェノールの中でも、ブドウやブルーベリーなどに含まれる「レスベラトロール」は、炎症性腸疾患での免疫調節の活性を示し、症状を改善することが示されている。

レスベラトロールにつていは、その他にもさまざまな疾患に対する予防・治療効果が報告されている。

その一方で、消化管からの吸収率が低く、生体内では速やかに代謝・分解されるため、生体での利用率は20%程度にとどまるという課題もある。

最近、レスベラトロールの類縁体で、同じくブルーベリーなどに含まれる「プテロスチルベン」が、80%程度の高い生体利用率を示すことが報告され、その機能が注目されていた。

今回の研究で、プテロスチルベンはレスベラトロールよりもさらに強力な免疫抑制の作用をもつことが明らかになった。

生体には免疫を適度に調節する機能があり、何らかの原因でそのバランスが崩れると疾患につながる。

今回の研究で、食品に含まれる天然化合物が健康維持のために果たす役割の一端が解明された。健康状態に応じて適切な栄養を摂取する食事バランスの重要性が示された。

研究は、東京理科大学基礎工学部生物工学科の八代拓也講師、西山千春教授らの研究グループによるもの。

プテロスチルベンの免疫調節の機能

潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、免疫のバランスが崩れて過剰に働くことが原因のひとつと考えられており、効果的な予防法や治療法が求められている。

研究グループは、食品中に含まれる成分や、その腸内代謝産物などが、免疫応答に及ぼす影響を細胞・遺伝子レベルで明らかにし、生体の健康維持に寄与することを証明しようと研究に取り組んでいる。

今回の研究で、ポリフェノールの一種であるプテロスチルベンの免疫調節の機能を調べる研究を行った。

生体内への病原体の侵入時に機能するさまざまな免疫細胞の中で、白血球の一種である樹状細胞と、リンパ球の一種であるT細胞は、その免疫反応の調節に重要な役割を担っていることが知られている。

樹状細胞は主に皮膚、鼻腔、肺、胃、腸管といった外界に触れる部位にあり、病原体など異物が侵入するとそれを抗原として取り込み、活性化してリンパ節に移動する。

活性化した樹状細胞には「MHCクラスII」という膜タンパク質が細胞表面に発現しており、その上に抗原があらわれる。一方、T細胞は、胸腺で成熟した後に「成熟ナイーブT細胞」としてリンパ節に移動するが、そこで表面に発現しているT細胞受容体(TCR)が、活性化した樹状細胞上のMHCクラスIIに結合した抗原を認識する。

この時、同時にT細胞表面に発現しているCD28という分子が樹状細胞上のCD80、CD86と結合して共刺激を受けることで、T細胞は活性化する。CD4T細胞(細胞表面分子の違いによりCD4T細胞とCD8T細胞の2種類がある)は活性化するとインターロイキン-2(IL-2)を分泌して増殖するとともに、「ヘルパーT細胞(機能によってTh1、Th2、Th17に分類)」や「制御性T細胞(Treg)」などに分化する。

何らかの原因でTh1、Th2、Th17が過剰な活性をもつことが炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、乾癬などの免疫疾患の原因になることが知られており、逆にTregは過剰な免疫反応を抑える働きをすることが報告されている。

プテロスチルベンの作用メカニズムを解明

実験では、レスベラトロールを用いるとT細胞の増殖が若干抑制されるのに比べ、プテロスチルベンを用いた場合には、より効果的に抑制されることが明らかになった。

次に、T細胞をTh1、Th2、Th17、Tregそれぞれに分化させる条件下にプテロスチルベンを添加してその影響を解析したところ、Th1、Th17への分化は強く制限され、Th2にはほぼ影響がなく、Tregの場合は逆に分化が促進されるという結果になった。

さらに、ナイーブCD4T細胞のみを抗CD3ε抗体、抗CD28抗体を結合させた培養プレートによる実験では、プテロスチルベンにより明確に増殖が抑制され、またT細胞からのIL-2産生も抑制されることが判明した。

Th1、Th2、Th17、Tregそれぞれに分化させる条件では、プテロスチルベンによってTh1への分化のみ抑制される結果となった。すなわちプテロスチルベンのナイーブCD4T細胞への直接の影響としては、増殖を抑制することとTh1への分化を抑制することが明らかになった。

プテロスチルベンが樹状細胞内の転写調節因子であるPU.1のプロモーターへの結合を阻害することで、抗原提示に関与する遺伝子群の発現が抑制され、それがT細胞の活性化抑制につながることが示唆された。

最後に、デキストラン硫酸ナトリウムとプテロスチルベンの両方を与えたマウスでは、腸の炎症などが改善し、腸炎の病態形成に関わる腫瘍壊死因子TNF-αの発現も抑制されることが示された。

「食品の機能性成分を同定し、その作用メカニズムを解明することは、病気予防のための食習慣の提案や治療薬開発へとつながります。今回、細胞を使った実験により、免疫抑制効果の高いプテロスチルベンを選抜し、マウスの腸炎モデルでプテロスチルベンの摂取が病態を改善することが示されました」と、八代講師は話している。