平気で「ジャム」を買う人が知らない超残念な真実
「食の裏側」を明かし70万部を突破する大ベストセラーになった『食品の裏側』の著者、安部司氏が開発したレシピ集『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』が8刷6万5000部を突破し、話題を呼んでいる。
『食品の裏側』発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、安部氏が自ら15年かけて開発した膨大なレシピノートの中から、「簡単に時短に作れるレシピ」を厳選した1冊だ。
いまなお食品添加物の現状や食生活の危機をメディア等で訴え続けている安部氏が「平気で『ジャム』を買う人が知らない超残念な真実」について語る。
「市販のジャム」は「家庭でつくるジャム」と大違い
トーストに塗るものとして「ジャム」は定番だと思います。
私も仕事でビジネスホテルに泊まることが多いのですが、朝食ビュッフェでトーストに「イチゴジャム」や「マーマレード」を塗って食べている人をよく見かけます。
でも、あの「使い切りサイズのジャム」が、実は「添加物を駆使して『増量』『置き換え』ワザを使ってつくられた『お手本』のような食品」だと言ったら、みなさん驚きますか?
ジャムというのは、家庭でもつくれます。というより、もともとジャムは家庭で果物を煮てつくる保存食でした。
ところが、いまはもう「市販のジャム」を買うのが当たり前の時代です。
しかし、「市販の安いジャム」は「家庭でつくるジャム」とは「別モノ」と言っていいほど、違うものになってしまっているのです。
今回は、平気で「ジャム」を買う人が知らない超残念な真実に迫ります。
まず、家庭で「自家製のイチゴジャム」をつくる場合を考えてみましょう。
家庭で「自家製イチゴジャム」をつくる場合は?
イチゴを洗ってヘタをとり、「グラニュー糖」をまぶしてしばらく置いたのちに火にかけ、煮上がったらレモン汁を入れて、軽く混ぜたら、完成です。
つくり方はそれぞれで差はあるでしょうが、大筋はこんな感じです。
果物を煮ると、中に含まれている「ペクチン」という食物繊維が溶け出します。この「ペクチン」と糖分を一緒に煮詰めると、果実に含まれる酸との作用によって、ゲル化してゼリー状になります。
この「自家製イチゴジャム」ですが、材料は「イチゴ」「グラニュー糖」「レモン汁」の3つだけです。
「グラニュー糖」は、イチゴの4割ほどの重量を加えるのが一般的です。「砂糖」は大量に使うと、保存効果が出ます。日本の伝統的な保存食である煮豆や羊羹なども、この砂糖の性質を利用してつくられています。
レモン汁は「とろみ」と「ほのかな酸味」を加え、変色を防ぎ、保存効果を高めるために使われます。
ところが、先の「使いきりサイズ」をはじめとした「市販の安いジャム」は、この「自家製ジャム」とは、実は「まったく違うつくられ方」をしているのです。
まず、コストを下げるため、原材料費がかかるイチゴを、なるべく減らしたいわけです。
すると、イチゴがもたらす「ジャム本来の性質」が弱くなってしまいます。これを添加物でどんどん補っていくわけです。
具体的に見ていきましょう。
「安いジャム」のつくられ方は?
【添加物による置き換え①】イチゴを減らした分「固さ」「とろみ」が足りないから、「ゲル化剤(ペクチン)」「増粘多糖類」を加える
「コスト削減」たのめにイチゴの量を減らすことで、まず「ペクチン」が少なくなるため、「固さ」「とろみ」がつきません。
これを「ゲル化剤(ペクチン)」「増粘多糖類」で補っていきます。この「ゲル化剤」としての「ペクチン」は、果物から抽出して「化学的な処理」を施した食品添加物です。
【添加物による置き換え②】イチゴを減らした分「酸味」が足りないから、「酸味料(クエン酸)」を加える
そして、同じくイチゴの量を減らすので、「酸味」が足りなくなってしまいます。
そのため、代わりに「酸味料(クエン酸)」を加えて、「ほどよい酸っぱさ」をつくり出していきます。
【添加物による置き換え③】砂糖を減らした分「保存性」が失われるから、「pH調整剤」を加える
さらに、家庭ではあまり実感しないかもしれませんが、砂糖も本物は高いものです。
よって、さらにコストを下げるために、なるべく「砂糖」を減らして、より安価な「水あめ」や「ブドウ糖」を使い、それで増量していきます。
すると、砂糖が減った分「保存性」が失われてしまうわけですが、そのため、代わりに「pH調整剤」を使って日持ちを良くするのです。
上記の添加物に加えて、イチゴの香りを足すために「香料」が使われることもあります。
この場合、当然、「イチゴの香りのする香料」を使うわけですが、この「イチゴ香料」も、みなさんにとっては少々「驚きのシロモノ」かもしれません。
どれだけ添加物を使っても「香料」の1行でOK
多くの人が「イチゴの香料」というからには、イチゴを抽出して香りを取り出していると思われるかもしれません。
しかしそうではなく、「化学物質(添加物)」を組み合わせて「香り」をつくり出します。
「イチゴの香り」を分析すると、約250もの「香り成分」があるといわれています。この香りの主成分を「化学物質」で組み合わせて「イチゴの香り」をつくり出していくのです。
その一例が下記の表です。結構な量が使われていることにビックリする人もいると思います。
【「イチゴの香料」の成分(一例)】
酪酸エチル 酪酸ブチル 酢酸エチル
乳酸エチル イソ吉草酸エチル アルデヒド
リナロール アセトフェノン バニリン その他
*各メーカーによって「配合の比率」「構成の成分」が違っており、「目的の食品」によって作り分けます
*20種類以上を混ぜることにより、「天然に近いフレーバー」をつくれます
(出所)安部司『食品の裏側2 実態編』より
ところが、これだけの化学物質を使っても、「香料」と一言書けばそれでOKなのです。
「一括名表示」といって、「複数の組み合わせによって効果を発揮する場合、詳しい物質名まで表記する必要はない」というような法律があるためです。
今回は「イチゴの香り」について「合成香料の裏側」を解説しましたが、「バナナ」などのほかの香りも、多かれ少なかれ、同じようなつくられ方をしています。
ここで述べたのはあくまで「市販の安いジャムのつくり方」の一例です。
もちろん添加物をまったく使わないでつくっているメーカーもあるし、まったくといわずとも、なるべく添加物が少ないものを販売しているメーカーもあります。
でも、「安価なジャム」になればなるほど、往々にして、こういう添加物による「置き換え、増量」がなされているのです。
ジャムは「添加物による増量・置き換え」のいい見本
つまり、下記のように、いろいろな食品の中でも、ジャムは「添加物による増量・置き換え」のいい見本だということです。
商品についている「裏ラベル」を見ても、「安いジャム」に限って、冒頭に「イチゴ」ではなく「糖類」など「イチゴ以外のもの」が来ていることが多々あります。
「手づくりジャム」の原材料
イチゴ、グラニュー糖、レモン汁
「安いジャム」の原材料
糖類(水飴、砂糖、ブドウ糖)、イチゴ
ゲル化剤(ペクチン)、酸味料、pH調整剤、増粘多糖類、香料
「手づくりジャム」にすると、「イチゴ」をたくさん使わないといけなくなりますが、イチゴは高い、砂糖も高い、だから「安い材料」にどんどん置き換えていくのです。
それによって「失われる風味や働き」は「添加物」でひとつひとつ補い、「それらしい味」につくり上げていくのです。
イチゴや砂糖を減らした分、「ジャム本来の性質」をどんどん「添加物」で補う
【固さ】……………「ゲル化剤(ペクチン)」で「固さ」を与える
【とろみ】…………「増粘多糖類」で「とろみ」と「なめらかさ」を増す
【酸味】……………「酸味料(クエン酸」で「酸味」を増す
【保存性】…………「pH調整剤」で「保存性」を高める
【イチゴの香り】…「イチゴ香料」で「イチゴらしい香り」をつくり出す
逆に言えば、「安価なジャム」はラクです。安く、早くつくれるからです。煮詰める必要がないから、機械であっという間に出来上がります。
それを考えると「安き」に流れずに、昔ながらの製法でつくっているメーカーは立派だと思います。
「安いジャム」と「昔ながらの製法のジャム」は、いうまでもなく、味がまったく違います。
私は甘いものもパンも好んで食べたいとは思いませんが、イチゴをコトコト煮てつくった「本物のジャム」は、実においしいものだなと思います。
みなさんも、ぜひ「本当においしいジャム」を食べてみてください。
「添加物による『増量・置き換え』の見本食品」ともいえる「安価なジャム」には、もう戻りたくなくなるはずです。
そして、「市販のジャム」をきっかけに、「値段」だけを見て「安さ」ばかりを求めることが、結局「見えない裏側」で「何を失うことになるのか」、それを考える契機になることを願ってやみません。