沖縄の伝統食はなぜ長寿の秘訣なのか、地中海食と並ぶ世界の双璧

本来はどんな料理? 「合理的かつバランスよく組み合わされた」食事と専門家

沖縄、大宜味村の「長寿膳」。(PHOTOGRAPH BY ALESSANDRO GANDOLFI)

 

Source :ナショナル ジオグラフィックとは / 2024/09/24

 地中海食は、世界で最も健康的な食習慣のひとつとして多くの注目を集めている。そして、その評価は十分に正当なものだ。しかし、地中海食のほかにもうひとつ、非常に健康的でありながら、あまり広く知られていない食習慣が存在する。それが沖縄の伝統的な食事だ。

 植物性食品をふんだんに使う沖縄食は、抗炎症作用に優れ、抗酸化物質やファイトケミカル(ポリフェノールやカロテノイドなど植物に含まれる物質)を豊富に含んでいる。実のところ、沖縄の伝統的な食事は、世界のほかの地域の食習慣と比べて、長寿とより深く関係している。

 沖縄は、100歳以上の人々の割合が世界でも特に高い「ブルーゾーン」と呼ばれる地域のひとつだ。沖縄の食の利点については、地中海食のそれに比べるとさほど多くの研究があるわけではないが、調査が進むにつれて、この食事がいかに健康に役立つかが明らかになりつつある。

 たとえば、2023年7月24日付けで学術誌「Nutrients」に掲載された論文によると、沖縄料理をベースとした食事を12週間続けた人たちは、体重が減っただけでなく、血糖値、インスリン値、コレステロール値も下がり、さらには腸内細菌叢にも良い変化が見られた。

 伝統的な沖縄食が、これほど健康に良い理由とは何だろうか。

「沖縄の食事は、カロリー密度が低く、栄養素密度が高く、食物繊維を多く含んでいます」と語るのは、沖縄国際大学教授で、沖縄長寿科学研究センターの共同主任研究員を務めるクレイグ・ウィルコックス氏だ。

「また、抗酸化物質を多く含む植物性栄養素が豊富であり、血糖値の上昇が緩やかで、抗炎症作用に優れています」。これには大きな意味があると、ウィルコックス氏は言う。

 なぜなら、「細胞レベルでの慢性的な低レベルの炎症は、老化のプロセスを進め、心臓病、脳卒中、糖尿病、がんなどの加齢に関連する疾患を引き起こす」からだ。(参考記事:「加齢に伴う炎症を抑えるには、体の痛みの他がんや認知症とも関連」

 沖縄の食はまた、免疫機能にとっても有益だ。2021年5月22日付けで学術誌「Nutrients」に掲載された論文によると、沖縄の野菜や果物を定期的に食べている人は、ウイルスや細菌への感染から体を守るのを助けるIgA、IgG、IgMなどの抗体レベルが高いことがわかっている。

 また、沖縄の食事に使われている食品は、長期的な脳の健康に役立ち、加齢に伴う認知障害のリスクを下げる可能性があるとの認識も高まりつつある。

「健康的に年を重ねることを目指すなら、沖縄の食が最適です」とウィルコックス氏は言う。「沖縄食に含まれる食品の多くは、長寿遺伝子であるFOXO3を活性化し、テロメアが短くなるスピードを緩めて、炎症を抑えます」。テロメアとは、染色体の末端にある構造のことで、染色体内にある遺伝物質を保護する役割があり、細胞の老化スピードの決定に関わっている。

沖縄食の起源と特徴的な食材

 沖縄の長寿は、伝統的な食事と全般的なライフスタイルに関連があると考えられていると、米ニューヨークで活動する栄養士の宮下麻子氏は言う。「沖縄の人々は屋外で長い時間を過ごし、また一日を通して一つひとつの食品を少しずつ、どれもほどほどに摂取するのです」



 地中海食やDASH食(高血圧を防ぐ食事方法)と比べると、沖縄の伝統的な食事は脂質(特に飽和脂肪酸)が最も少なく、また炭水化物が最も多い。

 事実、沖縄食における主要栄養素の割合は、良質の炭水化物(サツマイモなどの根菜類、葉物野菜)が大部分を占めており、炭水化物85%に対し、タンパク質は9%、オメガ3脂肪酸を含む脂質は6%となっている。(参考記事:「DHAなどオメガ3脂肪酸は「肺の健康にも重要」、初の報告」

 伝統的な沖縄食の場合、主食となる炭水化物は、日本食のような米ではなく、抗酸化物質に富むサツマイモ(黄色っぽい種類だけでなく、紫色や白色のものもある)だ。「サツマイモは良質の炭水化物であり、血糖値を急激に上昇させることがありません」とウィルコックス氏は言う。

 このほかの主要な食べものとしては、大量の大豆食品(大豆、豆腐、味噌汁など)、葉物野菜(ホウレンソウ、カラシナ、水菜、キャベツなど)、豆類、根菜類(ニンジン、タロイモ、ダイコンなど)、果菜類(カボチャ、ウリ、ゴーヤー)、キノコ類、多様な海藻類、魚、果物(ブドウ、バナナ、青パパイヤなど)、 少量の肉(特に豚肉)が挙げられる。

 好んで飲まれているのはお茶(特にさんぴん茶と呼ばれるジャスミン茶)と酒、よく使われる調味料はウコン(ターメリック)、ショウガ、かつお節、醤油、ニンニクだ。

 2017年2月7日付けで学術誌「Current Nutrient Reports」に掲載された論文によると、沖縄本島北部の大宜味村で最も頻繁に食べられているのは、豆腐と多様な海藻類だという。海藻は多くのミネラルを含んでおり、それが体内の電解質バランスを調整し、神経および脳の機能を保護すると、宮下氏は述べている。

「沖縄食が極めて健康的である理由は、健康的な食生活の基本テーマに忠実に沿っているからです。沖縄食は、植物を中心として、合理的かつバランスよく組み合わされたリアルフード(加工されていない食材で作られた「本物の食事」)なのです」と語るのは、米国生活習慣医学会の元会長デイビッド・カッツ氏だ。

「最適な栄養を取ることが、あらゆるものが正常に機能するのを助け、そのおかげで体の正常な機能が保たれます。良い燃料をタンクに入れれば、エンジンが最適に働き、老廃物を日々取り除くことにつながります」

 もうひとつ、伝統的な沖縄食の注目すべき点として、食を薬として捉える考え方(医食同源)があると、ウィルコックス氏は言う。沖縄食では、ハーブやスパイスを含む植物が健康を目的として用いられることが少なくない。

 たとえば、ジャスミン茶は自律神経系を調整して、リラックス効果をもたらすことが知られていると、宮下氏は言う。

 また、2020年8月26日付けで「The Journal of Human Nutrition and Dietetics 」に掲載された論文では、抗酸化物質が豊富な「いしまき茶」(沖縄に生えているオオイタビの葉を煮出したもの)を3カ月間、定期的に飲んだ場合、血圧が下がり、脂質異常が改善されることが示された。


 伝統的な沖縄食に使われないものとしては、加工食品、精白糖、大量の赤肉が挙げられる。また、乳製品も少ない。

「地中海食と共通しているのは、沖縄食が、慢性的な疾患を治すために考案されたものではないという点です」と、ニューヨーク市の栄養士で、米アルバート・アインシュタイン医科大学小児科の名誉准教授キース・アユーブ氏は言う。「沖縄食は、地元の人々の文化の一部として進化してきたのです」(参考記事:「100歳以上の男性の人口密度が最も高い「長寿島」」

食に対する姿勢も利点に

 沖縄食の利点は、沖縄の人々の食に対する姿勢からももたらされる。

 沖縄の人々は「腹八分」を大切にしている。「これはほんとうに良い考え方です」と、アユーブ氏はいう。「今は80%程度の満腹感を感じているとしても、15〜20分後には100%の満腹感を覚えることがあるからです」。脳が満腹を認識するのにそれだけの時間がかかるためだ。

 腹八分の習慣は、食べ過ぎを防ぐだけでなく、自然な形での緩やかなカロリー制限を可能にし、体重の管理や、消化、代謝の健康を助ける。また、植物を基本とした食事は、カロリーが低い一方、栄養価が高く、量が多いため、満腹感と体重コントロールに貢献すると、ウィルコックス氏は言う。

 伝統的に「沖縄の人々は細身で、これはつまり健康であるということです」と、カッツ氏は言う。

 ここ数十年の間に、沖縄の伝統的な食生活は、西洋の影響を受けた食事に取って代わられてきた。こうした傾向が始まるきっかけは、第二次世界大戦中に米軍が「スパム」などのポークランチョンミートを持ち込んだことかもしれない。缶詰めのポークは、チャンプルーなどの地元料理に取り入れられた。

 この時期以降、沖縄でも白米や卵が一般に使われるようになり、ファストフード店がまたたく間に数を増やした。当然ながら、近年では沖縄でも肥満や高血圧の割合が上昇している。

 もし伝統的な沖縄の食事に回帰すれば、沖縄の人も、それ以外の土地に住む人々も、健康面で大きな恩恵を受けるだろうと専門家は言う。それはまた、地球にも恩恵をもたらす。

「最近では、食事や健康に関して議論をする際には、持続可能性と地球の健康についても考慮する必要があります」とカッツ氏は言う。「沖縄の人々は何世代にもわたってこうした食事を続けてきました。沖縄食は持続可能な食事なのです」