日本人が知らない「肉や卵」の実はあぶない実態…毎日食べる食材は本当に大丈夫なのか
あなたは卵や肉、乳製品を一日何回食べるだろうか。
外食をするとき、卵や肉や乳製品を含まない食事がどの程度あるだろうか。
多くの人にとって、卵や肉や乳製品は、おそらく食事に欠かせないものとして自然と口にしているのではないだろうか。
最近ではプラントベースの食品(植物由来の原材料を使用した食品)も多少受け入れられているが、それでも大半のメニューや加工食品には動物性の食材が含まれている。
そんな重要な食材であるにもかかわらず、日本では卵や肉や乳製品へのこだわりが他国に比べ低い。
世界の企業が、利用する畜産物の基準を定め、アニマルウェルフェアに関するあらゆる情報を消費者や投資家に向けて公開している中、日本の企業はその情報公開がないのだ。
どこから来たかわからない「日本のお肉」
味の素株式会社は国内では比較的早くにアニマルウェルフェアに取り組み始めた企業であり、2020年に自分たちが調達する肉や肉エキスがどこから来ているのか、トレーサビリティを行った。
その結果「飼養現場までのトレース可否は、「フルトレース可能」と「条件付きでトレース可能」合わせて数量ベースで10%以下」だと公表した。つまり、90%以上の肉や肉エキスの生産者が不明だったというわけだ。
生産者が分からなければ、動物たちがどんな扱いを受けたのか、その農場がどんな基準で動物を飼育し、輸送し、殺したのかなんてことはわからない。
これは味の素に限った話ではない。企業がアニマルウェルフェアの取り組みを始める際にまず行わなくてはならないことは、現在自分たちが取り扱う畜産物がどんな飼育環境から来ているのかを把握することだ。
だが、日本企業は、自分たちが調達している畜産物がどんな飼育でどんな扱いを受けた動物のものか知らないし、把握しようと思っても難しい状況にあるケースが多々ある。
しかし、これは国産に限った話である。
どんな飼育から来たのかわかる「海外のお肉」
一方で、外国産の肉を使う企業は、全く状況が異なる。
外食チェーンや加工食品メーカーなどは外国産の食材を使う割合が高い。その場合、どんな飼育がされているのかを容易に把握することができる。
要望すれば、その生産者の詳細な飼育基準も手に入れることができるケースも多い。外国産の外国がどこかといえば、タイ、ブラジル、カナダ、中国、米国、欧州などが中心になる。
果たして、飼育や畜殺の方法もよくわからない畜産物と、それらがはっきりしている畜産物、どちらが安心だろうか。中には消費者の問い合わせに対して、「企業秘密です」などと回答を拒絶する小売店や食品メーカーすらあるのが“国産”である。自分の体に入れるものなのに、恐ろしいことだ。
アニマルウェルフェアの情報開示が求められる時代へ
海外の食品に関連する企業は、ウェブサイトや各種報告書で、自分たちが調達する畜産物のアニマルウェルフェアの現状や目標、方針を公開している。
ここ数年、その内容はどんどん精緻化しており、客観的に判断できる指標が多数掲載されるようになった。
いくつかの例を見てみよう。
マヨネーズや加工食品を展開するユニリーバ
卵はヨーロッパでは2009年からケージフリー(平飼いか放牧飼育)に切り替え、北米でも2021年からケージフリー、そして2025年には全世界でケージフリーに切り替えるとしている。現時点では72%がケージフリーに移行済みだ。
採卵鶏のオスは生まれたその日に殺されているが、これも卵の段階でオスとメスを見分けるという技術が導入可能になったら切り替えることを明言している。
鶏肉に関しては、世界の動物保護団体が業界と折り合って策定したベターチキンと呼ばれる基準に、欧州と北米では2026年までに沿うことを決定している。
その他乳牛や抗生物質の扱いなどについての規定が細かく書かれている。
また、アニマルウェルフェアの目標に向けた現状のパーセンテージの公開もされている。決して100%に達してからではなく、その進捗が1.7%と低い数字だったとしても、公開している。完璧だと主張しているのではないからこそ、誠実な対応がなされていると判断ができるのだ。
英国のスーパーマーケット
英国の生協やスーパーマーケットチェーンのアニマルウェルフェアの基準が充実している。
英国の生協協同組合であるCOOP UKの2022年アニマルウェルフェアに特化した基準&実績レポートは64ページにもおよぶ。
あらゆる項目が規定され報告されているが、例えば、鶏肉生産において、農場での鶏の足の裏にできる炎症の割合を報告し、経年変化を見ながら改善策を出している。
また、すべての動物種の輸送時間を割り出し報告している。つまり、飼育から輸送、畜殺まですべての工程、すべての生産者をCOOPは把握し、改善させるためのコミュニケーションも取れているということだ。
生協だからできているわけではなく、他のスーパーマーケットでも同様の取り組みが行われてる。消費者と直接つながりをもつ小売業が、すべての生産者を監視できる状態にあるということ自体がアニマルウェルフェアの担保になりうるだろう。
完璧な畜産はないからこそ
なぜ状況の把握と情報公開が重要なのか、それは完璧な畜産は無いからだ。
動物を飼育していれば動物は病気になるし、死ぬ。
どんなにアニマルウェルフェアを向上させても、苦しみのない飼育はありえないし、ましてや苦しみのない殺処分は存在しない。
畜産の現場では思う通りに動かない動物たちがおり、いつ虐待が発生してもおかしくない状態である。
だからこそ企業は、どんな努力をしていて、どんな環境を動物に提供していて、どのような状態を目指しているのか、数値を使うなどしてわかりやすく現状を示す必要がある。
つまり、消費者や機関投資家、銀行の融資担当者などが見て、アニマルウェルフェアに対する取り組みを判断できることが必要なのだ。
日本で世界水準のアニマルウェルフェアを目指し、進捗報告を始めた企業もある。
2021年、国内最大手の食肉企業である日本ハムは、妊娠ストールという繁殖用の母豚を拘束して飼育する方法を2030年までに廃止することを発表し、現状の移行状況の数字も公表している。
まだ公開する項目が圧倒的に足りていないものの、模範的な取り組みを日本社会に示したといえる。
他の企業もこれに続き、更に多くの情報を公開してほしい。
なぜなら、日本のような動物福祉に関連した法規制が脆弱な国にあっては、他国と違って法律がアニマルウェルフェアを一切保証してくれないからだ。企業は自分たちを守るためにも情報開示に努めなくてはならない。