卵の高騰「生産者としては大変ありがたい」 「ぼったくりすぎ!」と批判も...崩壊寸前の鶏卵業界

ソース: J-CASTニュース / 画像: - /著者: 瀧川響子

鶏卵の価格が上昇

   「物価の優等生」と言われ続けた鶏卵の価格が上昇している。高病原性鳥インフルエンザの拡大による供給不足や、飼料価格の高騰が原因とされている。ツイッターでは、半澤鶏卵の3代目・半澤清哉さんが「値段を叩かないで」などと訴え、業界の窮状に注目が集まった。

   J-CASTニュースの取材に対し、半澤さんは2023年3月9日、「このままでは将来、日本の卵が安定的に供給されない状況が続く」と危機感をあらわにし、価格上昇に理解を求める。

「養鶏場にとっても過去に例が無いほどの危機的状況です」

   半澤鶏卵は1960年、山形県天童市で創業した。半澤さんは、横浜の鶏卵メーカーで営業職として働きながら、家業である半澤鶏卵のマーケティングも手掛けているという。ツイッターで6日、「たまご屋からのお願い」として次のような窮状を明かした。

「最近お客様に『卵1パック200円代は高すぎ!ぼったくりすぎ!』と言われますが、 『もうこれ以上、値段を叩かないで下さい!泣(大声)』
1パック当たりの僕達の利益は大体2%位です。更に、鳥インフルが1羽でも発生したら周りの鶏も全て殺処分!売上は一年近くゼロ円です」

   さらに国内全体の養鶏場の数が減り続けても、「卵の価格はほとんど変えずに販売してきておりました!」と訴える。

   農林水産省の発表によれば、1960年は約383万8600戸が卵を生産するための鶏を飼育していた。しかし平成に入ると10万戸を下回り、2022年はわずか1810戸までに激減した。

   価格については、日本養鶏協会の統計を参照すると、1989年から現在まで、1キログラムあたり150円から250円の間で推移を続けている。23年2月は327円にまで跳ね上がった。

   取材に対し、半澤さんは「ただでさえ厳しい経営状況が続いていたにも関わらず、今期は鳥インフルエンザの感染拡大や、飼料、電気、資材等の高騰で、養鶏場にとっても過去に例が無いほどの危機的状況です」と述べる。養鶏場の数が減っていることについては「私達生産者の責任でもある」という。

なぜ養鶏場が減っているのか

   農水省の発表によれば、養鶏場の数は小規模層を中心に減少傾向が続いている。こうした状況について、半澤さんは次のように説明する。

「競争の原理が働き、取引先に対しての卸値や販売価格が、小~中規模の生産者さんと、大手の生産者さんではやはり大手さんのほうが有利です。小~中規模の生産者さんにとってはそれでは収支が合わずに、辞めていかれるケースが多くなっているという認識です」

  その結果、大手が鶏の羽数を増やし、寡占化が起こっているという。農水省の発表を参照すると、国内の卵を産む鶏の数は横ばいだ。

農林水産省の畜産統計より作成

「自分たちが大切に育てた鶏から産まれた卵を、自ら価格を下げ、シェアを取り合った競争の結果としてその競争に付いていくのが厳しい養鶏場さんが無くなっております。 やはりそこはお互いが競争のため、仕方ない部分ではあるのですが、私たちにも自ら価格を下げにいった責任はあると感じております」

 価格を基準に購入する人が多いことや、「物価の優等生」「特売の目玉品」といった安いイメージが定着してしまったことも、値段のたたき合いに繋がっているという。

「もちろん、それでは収支が合うわけが無いので、差別化を目指した商品に向けた努力をしてきておりましたが、なかなか浸透しきっていないというのが現状で、安いイメージが定着した結果、その価格でなければ売れないという共通認識と状況を作ってしまいました」

「価格上昇の理解を求めていきたい」

   半澤さんによれば、卵の価格は飼料代が半分を占めるが、飼料価格は右肩上がりだ。半澤鶏卵では価格を抑えるために、設備更新や機械化の推進、配送効率の見直し、資材のコストカットに加え、産卵率の上昇を図って飼料を見直したり鶏の住む環境を整えたりするなど、「出来ることは可能な限り行いました」という。

   半澤さんは「価格上昇の理解を求めていきたい」と訴える。

「卵の価格上昇については、正直生産者の私たちとしては、大変ありがたい状況です。むしろ、これまでの価格帯での販売では、大手の生産者さんでさえもコストが全く合わない状況でしたため、卵一つ作るために掛かる労力やコスト、鳥インフルエンザのリスクを考えると、これから卵を作る方が本当にいなくなるくらい深刻な状況でした」

   半澤さんの業界の窮状を伝えたツイートは、約818万回表示され、約2万9000件のリツイート、約8万件の「いいね」が寄せられる大きな反響があった。リプライ欄には「値上げしてこんちくしょーと思っていました...大変なのは生産する側ですよね」「卵の高騰は正直痛いですが、そもそもの価格が安すぎたのではないかと思います」などと納得する声が寄せられた。

   こうした反響について、半澤さんは次のように受け止める。

「想像していた以上に、皆様からのコメントやメッセージが温かい言葉に溢れていて業界の方々全員に見てほしいくらい、励みになるものばかりでした。本当に感謝しかありません。思い切って投稿して本当に良かったです」

   半澤さんは将来、祖父が創業した半澤鶏卵を継ぎたいと望む。しかし「業界の外に発信する力がまだまだ不足している」と考え、2022年に日本卵業協会が認定する卵のソムリエ資格で最高峰の「五ツ星タマリエ」を取得。卵業界を盛り上げるため「これからも生産者と消費者がお互いに歩み寄れるような情報発信をしていきたいと思っています」と意気込んだ。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)