「遺伝子組換え」と「ゲノム編集」の違いは?気になる安全性は?4月から法改正により「遺伝子組換え食品」の表示ルールが変更に

ソース: 婦人公論 / 画像: - /著者: 「婦人公論.jp」編集部

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食品の原材料を確認したとき、「大豆(遺伝子組換えでない)」のような記載を見たことはありませんか? 「遺伝子組換え食品」とは、より人にとって有益になるように遺伝子を組み替えた作物と、それを加工した食品のことを指します。「病害虫に強い」「除草剤の影響を受けにくい」などのメリットがある一方、人工的に作り出したものであることから健康への影響を心配する声も多くあります。2023年4月からは、「遺伝子組換え表示制度」が改正され、食品の遺伝子組換えの有無について、より消費者に分かりやすい表示が義務づけられました。この記事ではそんな「遺伝子組換え」と、近年話題になっている「ゲノム編集」について解説します。

遺伝子組換え食品とは

生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの別の生物の細胞に埋め込んで新しい性質を持たせることを「遺伝子組換え」といいます。

遺伝子組換え技術を使うと、自然交配では発生し得ないような品種を作り出すことができるため、主に農業の分野で重宝されています。

安全性はチェックしている?

遺伝子組換え作物は、人工的に作り出したものであるため、健康への影響を気にする声は多く聞かれます。例えば、遺伝子組換えを行ったことにより、毒性やアレルギー誘発性などの問題が生じていないかといった懸念です。

遺伝子組換え食品は、食品衛生法および食品安全基本法に基づいて、厚生労働省と内閣府の食品安全委員会によって安全性が確認されます。安全性審査では、「人体に有害な影響がないか」「組換えによって意図しない変化が起きていないか」「組み込まれた遺伝子はどのように働くか」などがチェックされ、最終的に厚生労働省に認可された遺伝子組換え食品のみが国内で流通しています。

4月から「遺伝子組換え表示制度」が変更に

遺伝子組換え食品の「義務表示」と「任意表示」

消費者の誤認防止や選択肢の拡大のため、2023年4月から遺伝子組換え表示制度が変更されました。

遺伝子組み換え表示制度は「義務表示」と「任意表示」の二つに分かれており、このたび制度が変更されたのは「任意表示」の方です。

・義務表示

原材料に遺伝子組換え作物を使用している食品に、「遺伝子組み換えである」などの表示を義務づけるもの。

・任意表示

遺伝子組換え作物を使用していない食品に、任意で「遺伝子組換えでない」などの表示をするもの。

従来は、「分別生産流通管理※をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品(厚生労働省より引用、以降同様)」について、任意で「遺伝子組換えでない」などの表示をしていました。

しかし、中には「遺伝子組換えトウモロコシはほぼ含まれていません」「大豆の分別管理により、できる限り遺伝子組換えの混入を減らしています」など、読み手の主観によって左右されるような表現や、遺伝子組換えの混入がない原材料であると消費者が誤解するような表示例が見られました。これが、消費者の正しい選択を妨げるおそれがあり不適切であるとみなされたため、このたび任意表示が厳格化されることとなりました。

※分別生産流通管理…生産、流通、加工の各段階で、非遺伝子組換え農産物に遺伝子組換え農産物が混入しないよう分別管理し、それが書類により証明されていること

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新制度での変更点

新制度では、食品に使用した原材料によって以下の2通りのどちらかに分類し、それぞれ異なった表示をすることが義務づけられています。

(1)分別生産流通管理をして、「意図せざる混入を5%以下に抑えている」大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品

適切に分別生産流通管理された旨の表示が可能。

(例)

・「原材料に使用しているとうもろこしは、遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています」

・「大豆(分別生産流通管理済み)」

・「大豆(遺伝子組換え混入防止管理済)」など

(2)分別生産流通管理をして、「遺伝子組換えの混入がないと認められる」大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品(厚生労働省より引用)

「遺伝子組換えでない」「非遺伝子組換え」などの表示が可能(従来と同様の表示が可能)。

これにより、消費者は遺伝子組換え食品の混入の有無をより判別しやすくなりました。

「ゲノム編集」は遺伝子組換えとは違う?

最近、「ゲノム編集」という言葉がしばしば聞かれるようになりました。一見すると遺伝子組換えと同じようにも思われますが、この二つには明確な違いがあります。

遺伝子組換えが「ある生物から持ってきた遺伝子を別の生物に埋め込む」のに対し、ゲノム編集は「その生物がもともと持っていて、どのような働きをするかが分かっている遺伝子を狙って切断などして変える」ことをいいます。

ゲノム編集の実例をいくつかご紹介します。

肉厚の真鯛

筋肉の発達を抑える遺伝子を働かなくすることで肉厚にし、可食部を増やした真鯛です。通常の真鯛よりも肉の量が多く、養殖の効率が上がるため、コストダウンが期待されています。

また、肉厚真鯛は「タンパク質危機」にも貢献しうるという点でも注目されています。

現在、世界人口の増加に伴い、将来的に動物性タンパク質が不足することが懸念されており、食用動物・魚類の代わりとなる大豆由来の代用肉や昆虫食などが話題となっています。この真鯛のように、ゲノム編集によって食用動物・魚類の生産を効率化することができれば、タンパク質危機を解決するための新たな手段になるのではないかと考えられています。

・高GABAトマト

血圧を下げる成分「ガンマアミノ酪酸(GABA)」を多く含むトマトです。トマトが有する、GABAの量を制限する遺伝子の一部を壊すことで実現しました。

・アレルギーの主な原因物質を除去した卵

卵に含まれる「オボムコイド」というタンパク質は、卵アレルギーの主な原因となるもので、遺伝子の働きにより鶏卵に蓄積されます。そこで、ゲノム編集によりこの遺伝子を働かなくさせ、オボムコイドを含まない卵を産む鶏を作り出しました。

ゲノム編集技術応用食品の安全性は?

ゲノム編集は、遺伝子を変異させるという点では「品種改良」と同じです。

従来の品種改良の場合、狙った遺伝子のみを変異させるために何世代も交配を重ねる必要があり、大変な時間と手間がかかっていましたが、ゲノム編集では、標的の遺伝子のみを変異させることができます。安全性についても、ゲノム編集と品種改良とでは変わらないといわれています。

また、ゲノム編集技術を用いたものと従来の育種技術を用いたものとは、科学的に判別不能であるとして、現時点では、食品のゲノム編集技術の使用の有無についての表示義務は定められていません。

出典=WEBオリジナル

「婦人公論.jp」編集部

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