日本人だけが知らない衝撃の事実!「世界中で訴訟になっているヤバい化学物質」が、日本の水道水に大量に含まれていた

ソース: マネー現代 / 画像: iStock, Getty Images/著者: 小林 空

自然環境ではほとんど分解されないという特徴を持ち「永遠の化学物質(フォーエバーケミカルズ)」とも呼ばれる化学物質「PFAS」(有機フッ素化合物の総称)はフライパンや半導体の製造など幅広い分野で使われてきた。

一方で環境や人体に悪影響を与える可能性があると指摘されてもいる。

90年代米国で、PFASを製造する工場の近隣に住む住民がPFAS汚染への補償を求め、大規模な訴訟を起こしたことを皮切りに、世界ではPFASの製造・使用の全面禁止も含めた規制強化の流れが進む。

PFASに汚染された地域の住民。米国マサチューセッツ州ウェストミンスター(Photo by Gettyimages)

実は、そんな厄介な化学物質に汚染された水を日本人は飲んでいるかもしれない。

環境省が今年1月24日に公表した調査結果によれば、全国で少なくとも13都府県、81地点の河川や地下水で2020年に国が定めた飲み水や地下水などの暫定目標値、1リットルあたり50ナノグラムを超えるPFASが検出されたというのだ。

京都大学大学院医学研究科准教授の原田浩二さんは日本で長年PFAS汚染の実情や健康に与える影響についての調査研究に携わってきた一人だ。

PFASの特徴や世界での規制の流れについて聞いた前編「住民の6割以上が基準値越え!国分寺市や立川市民の体が汚染されているヤバすぎる可能性…がんも誘発する「永遠の化学物質」で、日本の水道水が危ない」に続き、後編である本記事では日本におけるPFAS汚染の実情や課題について、原田さんに話を聞いた。

日本ではほとんど手付かずのPFAS

世界で規制強化が進むPFAS、その一部に関しては、すでに日本でも製造、輸入が禁止されている。

日本はPFASをはじめ環境や人体に悪影響を及ぼす化学物質の製造及び、使用の廃絶・制限を目的とした国際条約「ストックホルム条約(POPs条約)」に批准しているからだ。

しかし、原田さんはこれまでPFASに関して何も対策を講じてこなかった日本では、ストックホルム条約への批准だけでは不十分だと指摘する。

「欧州各国や米国などでは、国際的なガイドラインを待たずに国独自でPFASの毒性を評価し、規制値を定めようとする動きが進んでいます。

一方の日本はほとんど手つかずの状態です。何もしていないのは先進国では日本くらいではないでしょうか。

ストックホルム条約に批准し、国内でも一部PFASの新規製造・輸入が禁止され、この問題は終わった、という楽観論があったのかもしれません。

しかし、実際には日本各地の水から高い値のPFASが検出されてしまった」(以下「」箇所は原田さん)

日本では汚染実態の把握も遅れる

実際、近年では2016年に沖縄で宜野湾市の水源から、2019年に国分寺市の井戸水から高濃度のPFASが検出され、大きな話題となった。

「事態を受けてなのか、国は20年にやっと1リットル当たり50ナノグラムという、飲料水・地下水の暫定目標値を発表しました。

ただ、この数字は日本独自の調査・研究によって定められたものではなく、アメリカが2016年に発表した1リットル当たり70ナノグラムという値を参照しているにすぎません。

すでにアメリカでは23年3月14日に環境保護局(EPA)が1リットルあたり4ナノグラムという一層厳しい基準値の案を発表しています。一方で日本は諸外国の動きを受けて、規制強化に動き出すのかどうかすら定かではありません」

日本では汚染実態の把握も遅れている。

冒頭紹介した環境省の水質調査には続きがある。調査を受け、環境省は実態把握のための専門家会議を立ち上げ、その会合が3月28日に開かれた。そこで、PFAS濃度が国の暫定目標値を超えた地点の98%でPFASの排出源が特定できなかったという、調査結果が環境省から発表されたのである。

このような中でも、PFAS汚染の原因の一つと目されているのが、米軍基地だ。

沖縄、嘉手納基地や普天間基地周辺、横田基地のある東京多摩地域など、近年水道水から高濃度のPFASが検出された地域には、米軍基地近隣の土地の名前が並ぶ。

「米・国防総省が米軍関連施設でPFASの使用履歴と近隣の地下水の汚染状況を調べたところ、4分の1の箇所で地下水がPFASに汚染されていたと発表しています。

この調査では日本の米軍基地については触れられていませんが、日本だけが例外というわけではないはずです」

市民団体の調査で分かった実情

動きの鈍い国に代わり、各地で市民団体がPFAS汚染の実態調査に乗り出している。

摩地域では2022年秋から、市民団体「多摩地域の有機フッ素化合物による水汚染を明らかにする会」が地域住民約600名の血中PFAS濃度の調査・分析を行っている。

原田さんも同団体が集めた血液の調査分析に協力している。3月25日に発表された中間報告では調査を行った住民の約6割から米国の学術機関が「健康へのリスクが高い」とした血中濃度より高い数値が検出された。この結果をどう受け止めればよいのか。

「明らかに高い数値です。確かに、依然としてPFASが健康に与えるリスクについて確実になっていない部分は多い。また、PFASは水俣病などの公害のように急性的な影響が出るものではないと考えられています。

一方で血中濃度が高い状態が長期的に続くと、健康への影響が懸念されることはこれまでの研究から明らかです。行政レベルで、PFASの新たな摂取を抑え、定期的な健康状態のチェックができるような取り組みを行うことが求められます」

と原田さんは語る。個人でできる対策は何かないのか。

「汚染の状況については環境省やお住いの自治体の水道局ホームページでPFASの濃度にデータが公表されている場合があります。まずは調べてみましょう。

また、PFASの除去に関しては活性炭が有効だとするエビデンスがあります。100円ショップで売っている活性炭を使用した簡易な浄水器がありますから、気になる方は活用を検討してみてください」

取材・文/小林空(週刊現代編集部)