夏の食中毒、下痢止めは逆効果 対策の基本は

ソース: NIKKEI STYLE / 画像: PIXTA / 著者: 武田 京子

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蒸し暑いこの時期は細菌も増えやすく、食中毒が気になる。多くの場合は一過性で自然に治ることも少なくないが、中には重症化するケースもある。調理や食品保存の仕方などを工夫し、食中毒を予防したい。

食中毒は細菌やウイルス、キノコの毒などがついた物を食べて腹痛や下痢、発熱などを起こす病気だ。特に高温多湿になる6~9月は細菌が増殖しやすく、食中毒が増える。

最も多いのがカンピロバクターによるもの。主に肉類の加熱が不十分だと感染する。鶏肉で検出される率が高く、特に注意が必要だ。埼玉医科大学総合医療センター、総合診療内科・感染症科の岡秀昭教授は「発症初期に高熱が出てインフルエンザに似ているため“夏のインフルエンザ”ともいわれる」と説明する。

その後腹痛や下痢を起こすが、潜伏期間が2~7日と長く、本人は食物が原因と思わないことも多いという。「ほとんどは数日で軽快するが、ごくまれに、感染から数週間後に手足の麻痺や呼吸困難などを起こすギラン・バレー症候群になることがある」と岡教授は注意を促す。

「サルモネラ菌の感染源は肉や卵。ペットのカメや犬からも移る。子供は重症になることがあり、ペットを触った手を口につけないように注意し、手洗いの励行を」と浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫氏は指摘する。

行楽の季節に気をつけたいのがおにぎりやサンドイッチなど、素手で作る食品に付着する黄色ブドウ球菌だ。「皮膚の傷口などに潜んでいるので、調理には手袋を使いたい」(矢野特別顧問)

岡教授は「最近の“ジビエブーム”でE型肝炎ウイルスの食中毒が増えている」と指摘する。ウイルスに感染したシカやイノシシなどの野生動物の肉を十分に加熱しないのが原因だ。2~9週間ほどの潜伏期間の後、発熱や腹痛、肝機能低下による黄疸(おうだん)を起こし、まれに劇症化する。高齢者ほど重症化しやすい。

カキなどが感染源になるノロウイルスは冬の印象があるが、リスクは一年中ある。夏場は感染者からうつることが多いので、吐しゃ物は素手で触らないようにする。

食中毒はどう防げばいいのか。最も重要なのが食品についた菌やウイルスを死滅させること。それには十分な加熱が欠かせない。「肉や魚はしっかり加熱する。特にミンチ肉は内部にも菌がいるため、中心まで火を通す」と日本食品衛生学会長で東京農業大学の小西良子教授は助言する。

菌を食べ物につけないことも重要だ。調理前後、調理中に加え、トイレの使用後に手洗いを。小西教授は「まな板や包丁、ボウルなどの調理器具は、生肉や魚に使うものと野菜などに使うものを分け、使用後は十分に洗浄する」と付け加える。「バーベキューや焼肉では生肉に使ったトングで焼いた肉を取り分け、感染した例もある。焼く用と取り分け用は分ける」(岡教授)

菌を増やさないことも大切で、食品は購入後速やかに冷蔵庫で保存する。盲点は冷凍したものだ。「肉などを室温で解凍すると温度が上がり過ぎて菌が増えることがある。解凍は冷蔵庫で」と小西教授。

作り置きも避ける。カレーはウエルシュ菌が、チャーハンはセレウス菌が主な食中毒の原因になる。「たくさん作ったときは小分けにして急速に冷まし、冷蔵庫や冷凍庫で保存するとよい」(小西教授)

万が一食中毒になった場合「下痢止め薬を飲むのは原因によってはよくないことも。体内から菌が排出できないからだ」と岡教授。下痢や嘔吐(おうと)があれば十分な水分と塩分を。食中毒の多くは軽症で済むが、高齢者や乳幼児などは悪化しやすいので早めに医療機関を受診したい。